ブータが10匹目のピカチュウをチェーンソーで真っ二つにし、
俺が録画停止のボタンを押した瞬間、今日の仕事から解放された、と実感が沸き、肩の力がスゥッと抜けた。
「ノビタ、ちゃんと撮れたか?」
ブータが血まみれのゴムテを外しながら、俺にたずねる。
「撮れてるよ。やっと終わったなぁ」
「何が「やっと」だよ。今回殺ってたのは俺だけだろうが。」
「悪い悪い。ほら、ビデオ観て見る?」
俺はビデオカメラの画面をブータに向けた。
「どれどれ・・・っと」
ブータは100kgを超える巨体をドッと椅子に預けた。イスがギシシッと嫌な音を立てる。
ビデオを観ながら、返り血のついた顔を拭う。
「今日で何匹・・・いや、何百匹殺したんだろうなぁ、ピカチュウを・・・」
俺は頬杖をついて、ため息を漏らした。
「おめぇはまだ始めて日が浅いだろ。俺はお前より半年も早く始めてるから、ざっと2000匹は殺してるな・・・
お、よし。今回は良い線いくかもな。しっかり撮れてる」
俺とブータは、毎日のようにピカチュウを殺している。
決して趣味でやってるのではない。『駆除』し、楽しませているのだ。一般観衆を。
凄まじいポケモンブームに乗っ取り、ポケモンを愛護する団体が急激に増えた。
それに伴い、ペット用やバトル、労働用のポケモンが増加する中、ピカチュウというポケモンの代名詞といえる生命体が、群を抜いて「増えすぎて」しまったのだ。
奴等の繁殖能力は人間のそれを超越し、生活の中でピカチュウを見ない日は、ありえないくらいだった。
しかし、ペット用のピカチュウならまだしも、野生のが増えすぎた。
所詮やつらはネズミであり、知能自体も低くなく、高くもないという、厄介な生き物なのだ。
野生のピカチュウが作物や民家を荒らし、果てには人を襲って殺す事件が続発した。
発情したピカチュウによる性的暴行の被害者も後を絶たない。しかも老若男女問わずだ。
政府は、ポケモンを虐殺する組織を結成。俺とブータはその組織の一員だ。
ポケモン愛護団体は、今や壊滅状態に陥り、ポケモンを支持する人間はいない。
さらには、人類の娯楽のカテゴリーに「ポケモン虐待・虐殺」が加わった。
その名の通り、ポケモンをありとあらゆる手法で陵辱し、いたぶる。
虐殺する様子を全世界中継で配信し、駆逐の快感を共有するのだ。
月に一度、虐殺動画ナンバー1を決めるグランプリがある。
人々を奮い立たせるような過激な虐殺動画を配信し、グランプリを受賞できれば、目玉が飛び出る額の賞金までもらえちまう。
中でもピカチュウの虐殺は人気だ。親しみやすい外見、期待通りの鳴き声、リアクション、なんといっても繁殖しすぎたお陰で、捕まえてきやすいといったメリットかある。
俺達みたいな虐殺屋は仕事で、社会奉仕のため、そして一攫千金を目指してポケモンを殺していた。
しかし、思いつく限りの虐殺をしてきたが、これがなかなかグランプリを獲れないのだ。
グツグツと煮込んだパチンコ玉を口の中に詰めてやったり、チェーンソーでスライスしてやったり、硫酸の水鉄砲を顔に発射したりと、毎日、本当にエグいことをしてきた。
子供の頃の俺は、大人になってこんな底辺の仕事に就くなんて思っていなかった。
俺の家系は、比較的エリートな方で、親からは「立派な仕事に就け」とよく言われたものだった。
俺は某有名大学を卒業し、大手の企業に入社した。
しかし・・・俺には生まれつき「人徳」が無かった。とことん人から忌み嫌われるタイプの人間なんだ。
友達なんてできたことなかったし、女と手をつなぐなんてことは幻想以外の何者でもなかった。
そのまま社会に入ったものの、上司からは好かれず、腫れ物扱いされた。
俺は一ヶ月もしないうちに辞表を叩きつけ、社会への憤りをぶつけられるような職業、ポケ虐組織に入った。
ピカチュウを虐殺する際、これまで味わってきた不条理な出来事などを思い出し、それをぶつけてきた。
組織内ではブータとペアを組んで虐殺をすることになっているのだが、ブータは単なる仕事仲間であり、信頼を置けるようなパートナーというわけではない。
俺はブータから「ノビタ」と呼ばれた。
人から好かれる要素が無く、何の取り得も無い。それがドラえもんの「のび太」みたいだから、というのが理由らしい。
「俺は勉強はできるっつーの」と反論しようとしたが、こんな奴に無駄に反論しても得することはないので、素直に「ノビタ」と呼ばれることにした。
俺は一生、人と心を通わせることなく生きていくんだろう。あだ名なんて、どうでもいい。
ちなみにブータは昔から、顔が「ブタのようだ」と苛められてきたらしい。
そしてその憤りをぶつけるためにポケ虐組織に入団・・・という経緯らしい。
所詮、俺と同じ穴のムジナってわけだ。
ブータは俺に初めて会ったとき、そう言っていた。
そして「過去の屈辱を一生忘れないように、俺のことは「ブータ」と呼んでくれ」と言ってた。
変なヤツ。
その日はいつも通り、朝の10時に組織のビルに出勤し、作業着に着替えて地下の虐殺場へと向かった。
虐殺場は薄暗いコンクリの部屋がいくつもあり、仕事のペアと部屋を一室使って虐殺する。
ノコギリ、ハンマー、釘バット、ダイナマイト、アダルトグッズ、化学薬品・・・etc
この世で受けられるであろう、全ての苦痛が味わえるほどの道具が揃っている。
そしてターゲットのピカチュウを捕りに、俺はポケモン収容所へと向かった。
・・・何か、騒がしい。様子が変だ。
そーっとピカチュウが収容されてる檻を覗くと、中ではピカチュウ同士によるリンチが行われていた。
数十匹のピカチュウが一匹のピカチュウに噛み付いたり、体当たりしたり、引っかくなど、自分達にできる限りの暴力を振るっていた。
しかし、やられ役のピカチュウは平然とした表情で、全くダメージを負っていない。気絶してるわけでも、死んでいるわけでもなさそうだ。レベルが群を抜いて高いのか?しかし、ならばなぜリンチの対象にされるんだ・・・?
俺はガスマスクを装着し、催眠ガスの発射準備をした。その物音に気づいたピカチュウ達が一斉に慌て始めた。
そしてピカチュウたちは、俺に懇願するような鳴き声を上げながら、さっきまで自分達がボコっていたピカチュウを献上するように、前に押し出してきた。
「ぴかぁぁ!ぴかぴかああぁぁぁぁ!」
「ぴかぴーかぁ!」「ぴっかちゃあぁぁ!!」
「チュー!ピッカァー!!」
『こいつを好きにしていいから、自分達は見逃してくれないか』という意味だろうか?
腐った根性のやつ等だ。勿論、そんなこと言われてもこいつらに明日はない。
それにしても・・・だ。
「・・・・・・」ツーン
ボコられてたピカチュウは、それでも何の気なしの無表情のまま、ぷいとそっぽを向いた。
こいつ、良く見たら額に何か模様みたいなのがある。
「勾玉」(まがだま)が縦に伸びた様な、そんな模様があった。
「ピッカ!!チュアア!」
「ピッガァ!」
「チューッ!!」
『人間様の気分を害すな、生贄らしくしろ』と言っているみたいだ。
よし、この腐った根性の奴等から殺ろう。
模様のピカチュウにそれを見物させ、恐怖の表情を浮かべさせてやるか。
俺は催眠ガスを檻の中に撒いた。バタバタと腐った根性のピカチュウたちが眠りこけていく。
しかし、模様ピカチュウには催眠ガスが効いていないようで、平然とした表情でこちらを見続けている。
「何なんだお前は・・・」今までにない雰囲気のピカチュウ。俺は強烈な違和感を感じていた。
近づいて攻撃を喰らうと厄介なので、模様ピカはモンスターボールに入れた。
そして小さい檻にピカチュウを詰め込み、自分達の虐殺部屋行きのコンベアーに乗せる。
俺はモンボの中の模様ピカを観察しながら、虐殺部屋へと向かった。
虐殺部屋には、既にブータが来ていた。
チェーンソーをギュンギュン鳴らしたりして、道具のチェックをしている。
「よう、ブータ。」
「おす、ノビタ。運搬サンキューな。今日もグッチゃグッチゃにしてやっかぁ」
ブータは今日も殺る気満々だ。
「そうだ、ブータ。今日は面白そうな奴が居るぞ」
俺はモンボを取りだし、模様ピカを見せた。
「なんだそいつ。普通のピカ野郎じゃねぇか」
模様ピカは余裕綽々なのか、さっきの睡眠ガスが効いたのか、ぐぅぐぅ寝てやがる。
俺は虐殺の準備をしながら、先ほどの模様ピカのリンチの件を話した。
額の模様、そいつだけがリンチされていたこと、ダメージを受けた様子がなく、ケロリとしていること。
ブータは俺の話を聞き、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「へへへ・・・じゃあ、その模様ピカがこれから起こることに、どれだけポーカーフェイスでいられるか…楽しみだなァ~~~…ヘヘヘ…」
「俺も同じこと考えてたわwww」
同じ穴のムジナ…思考回路まで似てくるものなのか。
そうこう話してる間に虐殺の準備ができた。
まず模様ピカの拘束台を、部屋の中心に垂直に設置。
その正面に腐った根性ピカ用の拘束台を横一列に並べて設置。
全員を拘束したら、腐った根性達から虐殺する。
模様ピカには、同族達がいたぶりころされる様子を、じっくり見物してもらう。
どんな表情へと変わっていくのか楽しみだ。
ピカ達の両手足に錠をかけたが、未だに大の字になったまま全員寝ている。
よっぽどガスが効いてたんだな。
俺は続けて模様ピカを同じように拘束した。
コイツは眠たそうに、呑気に「ちゅあぁ・・・」とあくびをしている。余裕すぎだろ。
ブータは寝ている腐った根性達にビンタして起こしていた。
「ヂュビッ!!」だの「ビガヂュ!!」などと声を上げながら、たたき起こされていく。
そして、状況を把握したピカ達は「チュウゥ~~~!!!」
「ぴっかあぁぁぁ~~~~!!!!」と鳴き叫びながらガチャガチャと拘束具を揺らして暴れた。
俺達は暴れるピカ達を無視して、一匹ずつ虐殺を開始した。
爪の間に釘を打ちつける。悲鳴を上げるピカの指先が、真っ赤に染っていく。
これくらいは、まだ楽な方だ。
続いて、グツグツと煮込んだパチンコ玉を口の中に無理やり詰め込む。
このピカの口内は、おびただしい火傷と水ぶくれでいっぱいになった。
目玉に根性焼きを喰らわせる。数秒で失明した。
両耳を持ち、左右に思い切り引っ張って裂いた。
ドラえもんみたいなシルエットになり、かえって不気味なピカチュウが出来上がった。
ブータはそれを見て爆笑した。
性器の穴に電動ドリルを差込み、スイッチをONにする。
性器の皮膚がグチャグチャグチャ!!と音を立てて飛び散る。
痛みで泡を吹いて失神した。
アナルに爆竹を入れ、爆発させる。
ナイフで皮を剥ぎ、その表面をタワシで思い切りゴシゴシとこすりまくる。
目をひん剥いて絶叫する。
チェーンソーで四肢を切断。
断面から噴き出す血が、模様ピカの顔面に少しかかった。しかし、特に気にしてない様子だ。
口内に小型のダイナマイトを入れ、頭部を爆破した。
隣で四肢を切断されたピカの顔面の左半分も、爆風でグシャグシャになった。
これで腐った根性ピカの虐待、虐殺は済んだ。
驚くべきことに、これらを全て見ていたはずの模様ピカは全く動じていなかった。
それどころかさっきと同じように「ちゃあぁ~~~・・・」と呑気にあくびをする始末。
「おい・・・テメェ~~~・・・!まさかテメェは何もされない、なぁ~~~んて思ってんじゃあねぇ~だろぉなぁ~・・・??」
模様ピカの余裕っぷりにブータがキレ始めた。
「ぴかぁ~?」
模様ピカが眠たげに返事した。
「てんめぇ~調子コいてんじゃねぇ~ぞぉ~~~!!!!!!
口ん中グチャグチャになれやあぁぁ!!!!!」
ブータは模様ピカの口を広げ、グツグツに熱した数十個のパチンコ玉をし入れた!
「ちゅ~~~~♪」
しかし、模様ピカはパチンコ玉の熱さに悶える様子が全く無い。
それどころか、飴玉を舐めているかのように口の中でゴロゴロと転がして遊んでるようだ。
口の中でパチンコだ玉がぶつかり合う音が聞こえる。
「あぁ!?煮込みが足りなかったかぁ!?」
ブータが口の中から玉を取り出す、が、玉はしっかりと煮込まれていたようだ。
ブータが「アッチ!!アッチャアァ!!!」と叫んで玉をポロッと床に落とした。
「チャピピィ~w」
そのマヌケな様を見て、模様ピカは笑った。コイツ、笑うのか。
「くぅああぁぁぁ!!!てめぇ~~~ムカつくヤロウだなあぁ~~!!!焼き殺してやらあぁぁ!!!」
続いてブータは、チャッカマンのようなサイズのガスバーナーを取り出し、模様ピカの右目に密着させて放射した。
これは先ほどの、目玉の根性焼きなんかよりもダメージがでかいはずだ。
・・・が、これでも模様ピカは涼しげな表情のままだった。
「な!?何で効かねぇんだ!?何なんだテメェはぁ!!」
左目にバーナーを移し、顔面、性器にも炎を当てる。だが、やはり模様ピカには効かないようだ。
他にも性器に電動ドリル、アナル爆竹、ナイフで皮を剥ごうとしても、皮は剥げず、タッチペンでニンテンドー3DSの画面を擦るような感覚しかしなかった。硬化タワシで身体をメチャクチャに擦ったりしても、無駄だった。
「これなら・・・どォォォだよォォォォォォォーーー!!!」
最後の手段。チェーンソーによる四肢切断・・・しようと試みたものの、腕、足に当てたチェーンソーはそのままスルリ、と模様ピカの皮膚を通過した。
腕は繋がったままで、痛がっている様子も、やはり無かった。
何故なんだ・・・?
俺とブータは途方にくれた。
ブータは腹いせにチェーンソーで、生き残っている腐った根性たちを一匹残らず殺した。
「ピッガヂュアァァ!!!」
「ヂュアァァ!!ピガピガァァァァァ!!」
「ピイィィガアァァァァァァーーーー!!!!」
腐った奴らは、模様ピカに怒りの声を上げながら、死んでいった。
「ノビタ・・・そいつ、棄てて来い!!」
模様ピカを指差して叫ぶブータ。
「はいよ・・・っと」
モンボに再び模様ピカを入れ、死体廃棄場に向かった。
模様ピカはボールの中で再び眠りこけていた。
小学生のつまらない学芸会を見せられた保護者のような気分だったのだろうか。
死体廃棄場では、ポケモンの死臭で溢れかえっていた。
ありとあらゆる方法で虐殺されたポケモンの死体が山積みになっている。
俺はボールの中の模様ピカに視線を移す。
模様ピカはいつの間にか眠りから覚めていて、俺に視線を合わせた。
さっきまで見せることの無かったような、どこか儚げな表情で俺を見つめ返している。
目を細め、ゆっくりと瞬きしながら、俺をジッと見つめる。
俺は最初にコイツを見たときに感じた違和感、何か・・・『心地のいい違和感』を感じていた。
漫画でよくある、生き別れの兄弟が偶然出逢って、何かを感じあうような・・・そんな感覚だ。
「ぴか、ちゃあ」
模様ピカは一言だけ、俺に向かってそう鳴いた。
・・・周囲を見渡す。・・・誰も居ないようだ。
俺は模様ピカの入ったモンボを、ズボンのポケットの中に滑り込ませた。
ブータと虐殺部屋の掃除をし、今日の仕事は切り上げた。
家路を急ぐ。
玄関のドアを開け、部屋に散らばっている雑誌や食いカスを軽く掃除した。
そして・・・模様ピカをモンボから出してみた。
床に向かって赤い光線が放たれ、ピカチュウのシルエットができあがる。
模様ピカは、俺の部屋の真ん中に、ちょこんと姿を現した。
仕事場で浴びたピカの返り血が顔に付着したままで、カピカピに乾いていた。
これまでたくさんのピカチュウを見てきた経験からすると、コイツには敵意がないことがわかった。
(何となく、だが。)
「ちゅうぅ、ぴかちゃあぁ~」
何かを訴えるような声で鳴き出した。おそらく、腹が減っているんだ。
俺は台所からリンゴを持って来て差し出した。
「ぴか!チュウ~!」
両手で受け取ってシャクシャク、と食べ始めた。嬉しそうだ。
何となく、頭を撫でてみたい、という衝動に駆られた。
手を頭の上にスッと差し出したが、「ちゃあ」と鳴いて避けられた。少しガッカリした。
よっぽど腹が減ってたのか、リンゴの芯まで食べてしまった。
「ちゅー」と満足げに鳴いた。
模様ピカは返り血の他にも、良く見たら全身が汚れていた。
風呂に案内したが、警戒した様子で浴槽まで入ってこなかった。
虐殺部屋で無敵のボディをお披露目したクセして、何故に警戒する必要があるのだろうか。
仕方ないので、タオルをお湯で濡らし、全身を拭いてやった。
気持ち良さそうに「チュアァ~・・・」とため息をついていた。
素直に風呂に入れば良いのに。
一通り汚れを拭うと、模様ピカは部屋の物に興味を持ち、探索し始めた。
本棚をあさったり、タンスの中に潜ってみたりしていた。
ポケモンの空き巣がいたらこんな感じなんだろうか、とくだらないことを考えてしまった。
俺はひとまず、模様ピカのことを放っておいて、パソコンを立ち上げた。
模様ピカの異常な体質について調べるのだ。
奴の体質は、額にある模様と何か関係があるに違いない。そう踏んだ俺は
「ポケモン 額 模様」でググった。するとあっさり、回答らしきページが見つかった。
ポケモンがかつて、社会的実害の無い生命体と認められていた頃に作られたページだ。
【呪われたポケモン】
・ポケモンには、呪いにかかるものがある。
・呪われたポケモンには、額に模様のようなものが浮かび上がる。
・呪われたポケモンは、他の生命体から忌み嫌われ、孤立する存在となる。
・その代償として、身体に一切の外傷を受け付けなくなり、不死身の肉体を得る。
・それ故、孤独のまま生き続けてしまう。
・呪いを解く方法は見つかっていない。
・・・なるほど、そういうことだったのか。
模様ピカは呪いによって、他のピカチュウから忌み嫌われて暴行され、生贄とされたのか。
もっとも、呪いのお陰でダメージを受けず、生贄としての役割を果たさなかったが。
それに不思議なことだが、俺は他のピカチュウと比べて、この模様ピカに対する嫌悪感は
皆無だった。
模様ピカはいつの間にか、タンスを引き出して、俺のパンツや肌着の中に埋もれて眠っていた。
そっと毛布をかけてやった。
俺が風呂から上がった後も、模様ピカは眠りこけていたので、そのまま寝かせておいた。
そして俺もそのまま床に就いて、模様ピカの呼び名を考えているうちに眠ってしまった。
翌日、ガサゴソという音で目覚めると、模様ピカが台所をあさっていた。
リンゴでも探していたんだろう。
「・・・おい、リンゴはもうねーよ」
「チャアァァ~~~」
模様ピカはカクリ、と肩を落とした。
「しょうがねーから朝飯食わせてやるよ。あっちでおとなしく待ってろ。」
「チャー」
返事したくせに、模様ピカは台所の入り口からずっと俺が料理してるのを見続けていた。
たまに足元をうろつくもんだから、何度か踏みつけそうになった。
コイツは痛みを感じないから気にする必要がないのだが、俺が転ぶのがイヤなもんで、どっちにしろ気を遣う必要があった。
「ほれ、ピザトーストだ。食え。」
俺は食パンに細切れのピザとケチャップ、ベーコンと適当な野菜をのせてレンチンしたお手軽料理を差し出した。
模様ピカはすぐに両手で口の中に運び入れ、ガツガツと食べ始めた。
「うまいか?」
「ピカァー!」
なかなか好感の持てる返事が返ってきた。「イエス」という意味だろうか。
俺も自分の分のトーストをかじる。誰かと一緒に朝飯を食うなんて何年ぶりだろうか・・・。
(誰か、といってもこいつは人間でなく、ポケモンなんだが)
仕事の支度をし、玄関で靴を履いてると、模様ピカは
「ピカー、チャアー」
と鳴いた。「いってらっしゃい」といったニュアンスだった。
「行って来ます」
返事してみた。
「一応、言っておくけど、部屋から出るんじゃないぞ。俺以外の人間はお前に優しくしねーからな」
「チャアー」
少々不安だが、馬鹿ではなさそうだから、俺は躊躇い無く家を出た。
嬉しそうな笑顔で見送ってくれた。
「職場に向かう間、模様ピカの呼び名を考えていた。
「ノロチュウ」、「ピカノロ」、「モヨピィ」
・・・自分のネーミングセンスを疑う呼び名しか思い浮かばなかった。
職場では、いつものようにピカチュウを虐殺した。
ブータは昨日の模様ピカを痛め付けられなかった悔しさを、存分にぶつけていた。
「死ねやァーーー!!このクソチュウゥーーーー!!!」
ブータはチェーンソーをピカチュウの股間からゆっくりと頭に向かって進行させた。
骨や肉が勢い良く裂かれる音とともに、ピカチュウの激しい断末魔が響き渡る。
「ヂュウゥギャギャギャギャギャギャアァァァァーーーーー!!!!!!」
叫びながら身体が真っ二つになり、内臓や体液がバチャバチャと弾けて落ちる。
俺は黙ってビデオカメラを回し続けた。
・・・なんとなく、今日は虐殺する気になれないのだ。
「オイ!ノビタぁ!!てめーもやれ!!昨日の模様クソチュウに馬鹿にされたんだぞ!?悔しくねーのかぁー!?」
馬鹿にされたのはお前だけだ、クソータ。
だが、俺は模様クソチュウを家で保護してるのを悟られないため、クソータに合わせた。
「アァ~~、そうだったなァ~~~・・・。
あの模様クソチュウ・・・全ッ然、苦しんでなかったよなァ~~~・・・
だから、テメェ~らが苦しめやァーーー!!!!!」
俺はもう一台のチェーンソーを起動させ、ピカチュウの顔面に刃先をかすめ当てながらブンブンと小刻みに
シェイクさせた。
「ヂゅビャヂゃヂゃヂゃピガヂゅヂゅヂュヂュゥゥゥゥ~~~~~!!!!!」
ピカチュウは顔の肉片を散らばせながら泣き叫ぶ。
何故か、心に冷たい釘を打ち付けられたような、そんな感覚に襲われた。
今朝、家で食事を共にした模様ピカの笑顔が脳裏に浮かぶ。
俺はピカチュウの顔面が、人体模型のような赤黒い筋だらけになったところでチェーンソーを止めた。
ピカチュウは激痛と恐怖でヂューヂューと泣き続けている。
「ブータ、後、殺ってくれ・・・」
「あぁん!?てめぇ!ノビタ!!まさか怖気ついてんじゃねぇーだろうなぁ!?」
「違うよ、俺じゃコイツをこれ以上の恐怖と苦痛を味合わせる方法が思いつか無いんだ。
何か、こう、手本をみせてくれよ。ゾクゾクするようなヤツを」
「はぁ~~~んッ!!まだまだ半人前だなテメェもよォ~~~!!!見てろォォォォォォ!!!!」
ブータは両手にタワシを持ち、ゾンビのようなピカチュウの顔面にソフトにあてがい、サワサワと刺激し始めた。
「ビュヂャアァァァ!!!!ピガピガピィィィィィガアァァァァァァ!!!!!」
「アァーーーハハハ!!クソチュウたーーーん!!!くしゅぐったいでチュかぁぁぁぁ!!??
しょれえぇぇぇーーー!!くぉちょ、くぉちょ、くぉちょぉぉぉ!!!!」
「ピッヂュゥゥゥゥゥ!!!!ヂュウゥギャアァァァァァーーー!!!!!」
ピカチュウは数分も経たないうちに、痛みでショック死した。
その日も、俺は午後の虐殺を終えると急ぎ足で帰宅した。
ブータが「今日はお前、元気無かったな!悩みでもあんなら、この虐殺大先輩に相談してみろや!」と呑みに誘ってきたが
二つ返事で断った。ブータのヤツ、先輩面して誘ってくるクセにワリカンにしやがるからな。
そんなヤツと呑んで何が楽しいんだクソが。
家に着き、玄関のドアをそーっと開ける。
普通に開けて、模様ピカが飛び出してくるのを人に見られたら大事だからな。
しかし、模様ピカは飛び出してくるどころか、玄関にすら来なかった。
なんとなくお出迎えを期待してたんだが、見事に裏切られた。
部屋に入ると、俺のベッドの隅で丸まって寝ていた。昼飯用に置いておいた餌は完食していた。
そして漫画本がそこらじゅうに散乱している。俺がため息をつきながら漫画を整理していると、
「ぴかぁ~~~・・・」と鳴いて起き出した。
「おい・・・漫画、読んだのか?ちゃんと元の場所に戻しておいてくれよ」
「チュアァ~~・・・」
一緒に漫画を拾い、片付け始めた。こういうところは素直で大変よろしい。
「どの漫画が一番面白かったんだ?」
「ぴかー!」
『ワンピース』を指差した。意外とメインカルチャー派だな。
テレビを観ながら、晩飯を一緒に食べた。漫画が読めるのだから、当然のようにテレビ番組も楽しそうに観てた。
中でも、『世界仰天ニュース』は、俺以上に釘付けになって観ていた。こいつ、中身は普通のオッサンか何か入ってんじゃねぇのか、と疑うくらい、早くも俺との生活に馴染み始めていた。
そして、風呂に入ろうとしたらトコトコ付いてきた。
一緒に風呂場に入れてみても、今日は拒否しなかった。
風呂場の浴槽、シャンプーボトル、髭剃り、様々なものに興味を示している。
シャワーノズルを持たせ、いきなりお湯を噴射させたら
「ピカアァァァァァァッ!?」と驚いた。
その勢いで俺の顔面にお湯をぶっ掛けたもんだから、お返しに頭からお湯をかけてみた。
「チュアァァ~~~~~~・・・・」
・・・とても気持ち良さそうだ。そのまま石鹸で泡立てて、身体を洗ってやったらさらに気持ち良さそうにしてくれた。
湯船に入れてやると、これまた
「チュウウゥゥゥゥゥ~~~~~・・・!」と目をウットリさせて気持ち良さそうに鳴いた。
頬の電気袋がほんのりと赤みを増した。
なぜか俺は心がホクホクと満足感に満たされていた。
が、頭を撫でようと手を伸ばしたら
「チャッ!」
と避けられた。なぜなんだ。
お互い、湯船で向かい合い、じっと見つめあう。沈黙を破ったのは俺からだった。
「・・・お前は、今まで一人で生きていたのか?」
「・・・ぴか」
「そうか、俺もだ・・・俺は小さい頃から、人に嫌われて、孤立して生きてきた」
「・・・・・・」
「お前は呪いによって痛みを感じることの無い身体になった。だけど、仲間内からは嫌われて、孤独な生活を送ってたんだよな?」
「・・・ぴか」
「・・・お前と・・・お前と俺は・・・似ている。よくわからねーけど、なんか似てるよな?
お前もそれを感じて、今、俺と一緒に居るんだろ?
あの時・・・お前を棄てようとしたとき、ボールの中で何かを訴えたのは・・・そういうことだったんだよな?」
「・・・ぴか」
「じゃあ、嫌われ者同士、仲良くやろうぜ・・・。俺、お前と居るの、結構楽しいよ」
「・・・チュウー///」
「!そうだ!『ノピカ』、『ノピカ』ってのはどうだ!?」
「チャ?」
「お前の名前だよ!呪われてるピカチュウだから、『ノピカ』だ!そのまんまだけど、可愛いだろ!?」
「ぴかぁ!」
「ははは!決まりだな!ノピカ!
俺はノビタだから・・・『ノピカとノビタ』だな!」
「ぴか!ぴかー!」
ノピカは嬉しそうに、はしゃいでみせた。
ノピカの忌み嫌われる呪いと、俺の生まれ持った嫌われ者オーラの波長が、フューチャリングしているのだろうか。コイツとは仲良くやっていけそうな気がする。
風呂から上がり、ドライヤーでノピカの身体を乾かしてやった。
鏡で綺麗になった姿を見せたら
「ピカァ~~~!チュウゥゥ///」
と、まんざらでもなさそうに照れていた。
「今日もタンスで寝るのか?ベッドで一緒に寝てもいいんだぞ?」
「ぴかー!」
ノピカはベッドにピョンと飛び乗って隅っこで丸まった。
「なんだ、一緒の枕で寝るんじゃないのか。こっち来いよ」
俺はノピカの身体を枕に寄せようとしたが、
「ピャチャアァー」と拒否された。変なトコだけガードが固い。
仕方ないので、そのまま寝た。
朝起きたら、ノピカは俺の枕元で寝ていた。寝相でこうなったのか、自発的に寄ってきたのかはわからんが、
念願の頭を撫でてみた。
「ピッ!カ!」
ガバリと起き上がった。
「おはよう、ノピカ」
「ピカァ・・・チュー!」
ノピカは今日もたらふく朝ごはんを食べ、俺を玄関まで見送ってくれた。
「チュー!ぴっかぁ!」と笑顔で見送る姿を思い出し、出勤中に何度かニヤついてしまった自分が居た。
その日も仕事場では、虐殺する意欲が沸かなかった。
虐殺対象のピカチュウに名前をつけて、自宅で保護してるのだから・・・当然だ。
「おい、ノビタァ!てめぇボーっとしてんじゃねぇぞぉ!!殺る気あんのかテメェーーー!!!」
ブータはピカチュウの目玉に五寸釘を打ちつけながら俺に発破をかける。
「あ!?あぁ!!殺る気マンマンだよ!!今、どうやって殺してあげようか考えてたんだ!!」
「考えんじゃねぇー!!インスピレィションだー!!ピカたんがどうやっていたぶってもらいたいかを
感じて殺ってやれェェーーーー!!!!!」
「・・・ブータ先輩!!パネェッス!!大先輩にゃあかなわねぇッス!!」
「大先輩・・・デュフフwww ピィーーッカたぁーーん!!この虐殺大先輩がたぁーっぷり可愛がって虐殺してあげまーーーーちゅ!!!」
ブータは『大先輩』と呼ばれただけで上機嫌になって、釘をピカの身体に打ちまくった。
単純な上司は扱いやすくて助かる。
「イィーーーッヤホォォーウ!!!俺は虐殺大後輩ィィーーーッ!!
ピッカたーん!この世に生まれたことを後悔してくだっちゃーーーい!!!」
俺はブータのテンションに無理やり合わせ、ピカの性器に電動ドリルをぶっ挿した。
ピカの絶叫が俺の鼓膜をこれでもかと言うくらい振るわせた。
もうヤダ、この仕事・・・。早く帰ってノピカと戯れたい。
出逢って数日も経たないうちに、ノピカは俺の家族同然の存在となっていた。
俺の脳内は、完全にノピカのことでいっぱいだった
家でノピカと一緒にテレビを観ながら飯を食い、
風呂に入り、同じ枕で頬を寄せながら眠ることだけが楽しみになっていた。
ノピカは日が経つにつれてどんどんと俺に心を開いていき、好きに頭を撫でさせてくれたり、
風呂では背中を流し合いっこしたりもした。
甘えて猫みたいに頬を摺り寄せてきたり、寝てるときは
「チュアァー・・・」と寝言を言いながら俺に抱きついてきたりもした。
これまでの人生で味わうことの無かった幸福感で、俺は満たされていた。きっとノピカもそうに違いない。
それに伴い、ブータは俺に不信感を抱いてる気がしてならなかった。
だが、俺はブータにどう思われようと、ノピカと一緒に居られるなら構わなかった。
それどころか、ブータの知らないところで俺は日々、幸せをかみ締めて生きている。
そんな優越感もまた、俺の心を潤していくのだった。
しかし、人生の絶頂は長くは続かないものだ。
『幸福』の裏には、何かしらのリスクが潜んでいる。
それを思い知る日が、きてしまった。
ピカチュウ呪われてまチュウ!【後編】に続きます。
- 2012/07/31(火) 20:38:40|
- ピカ虐(長編)
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