ピカチュウ呪われてまチュウ!【前編】からの続きです。
いつものように、仕事場でピカ達を虐殺していると、大音量のアナウンスが流れた。
《緊急連絡!緊急連絡!全団員に告ぐ!!直ちに公開虐殺場へと集合せよ!直ちに公開虐殺場へと集合せよ!》
「アァん!?イイトコだったのによぉ!!」
ブータはピカの口の中に小型ダイナマイトを突っ込みながら舌打ちした。
「な、何があったんだ・・・?」
俺達は直ぐに虐殺部屋を出て、公開虐殺場へと向かった。
後ろからピカの断末魔と爆発音が混じり合った音が聞こえた。
公開虐殺場では、すでにほとんどの団員が集まっていた。
ここは野外のライブ会場のような虐殺場で、一般人も立ち入って虐殺の様子が観覧できる。
中央のステージで、一人の団員が大の字に拘束され、その脇にはポケモンのプラスルとマイナンも同じように拘束されていた。
アナウンスが流れる。
《全団員!そして観衆よ!音にも聞け!!この男は、我が虐殺組織の団員であるにも関わらず、我々人類の第一級有害指定生物、『ポケモン』の保護、及び飼育を自宅にて陰密に行っていた!!よって、この男、及びポケモンを死刑に処す!!》
「「オオオォォォォォォォォ!!!!」」
俺以外の団員、一般観衆の怒涛の叫び。処刑台の男、ポケモンに対する罵倒と侮蔑のヤジが飛び交う。
《君達にはこれからの処刑をより楽しんでいただくため、この者達の誰が、一番最後まで息の根が続くかをダービーしてもらおう!!コイツだ、と思う処刑者の前方に移動し、その様子を見ていてくれ!では、移動開始!!》
俺はポーカーフェイスで居るよう努めたが、どうやら無理だったみたいだ。
手とわきの下にはじっとりと汗をかき、顔は青ざめていたことだろう。
頭の中は真っ白で、アナウンスの指示をまったく聞いていなかった。
周りのやつらの移動が終わる頃になって、やっと現状を理解し、一番人が集まっている方に移動した。
その列は「男」に賭けた者の列で、ブータもそこに居た。
「オイ、ノビタ。どうしたんだ」
「いや・・・人間が殺されんのは・・・ちょっと、観たくねぇなぁ・・・って」
「何言ってんだオメェ!ポケモンを保護してたクズ人間だぜ!?そんなヤツが苦しむ姿は・・・一度観たら快感になっちまうぜぇ~・・・」
「そ、そうか・・・」
俺は人間が殺されるのを目の当たりにすることに戦慄しているのではない。
あの処刑台に立つ人間が、いずれは自分になるかもしれない、ということを自覚してしまったのだ。
大の字に拘束される自分とノピカの姿が、鮮明に思い描けてしまった。
《ふむ、倍率は男5:プラスル2:マイナン3といった具合だな!では・・・処刑、開始ィィィッ!!!!》
処刑台の三人の左足にガソリンをかけられ、着火された。
右足はチェーンソーで縦に少しずつ切れ目を入れられていく。
男、プラスル、マイナンの絶叫と観衆の歓喜の咆哮がユニゾンしている。
続いて両腕の末端からタラリ、タラリと液体を垂らされ、身体に当たるとジュウウッと音を立てて煙を噴いた。
恐らく硫酸だ。
男は泣きながら必死でプラスルとマイナンの名を呼び続けている。
二匹のプラ、マイも、男の方を向いて「ぷらあぁぁぁぁぁ!!!!」「まあぁぁぁいいぃぃぃぃぃ!!!!」と
泣き叫ぶ。
観衆達はそれを観て腹を抱えて爆笑する者、恍惚の表情で見守る者、「俺にも殺らせろ!ミンチにさせろ!」
と煽る者、様々なやつ等が居た。とにかく俺以外の者は非常に楽しんでいるようだ。
ブータの方を見てみると、何か叫びながらブヒブヒと鼻を鳴らして興奮していた。奴は勃起までしている。
プラスルとマイナンは、左足の炎が上半身まで到達し、顔が焼き焦げて右足の出血多量でガクリと力尽きた。
男もだいぶ限界がキていたが、微かに「ぷ、ぷら・・・s・・・ま・・・いn・・・」と二匹の名を呟くのが確認された。
彼の両腕は既に上腕二等筋の辺りまでドロドロに溶けており、左足の炎は性器まで焦がし尽くしていて、右足は
これ以上筋が入れられないくらいズタズタに切り刻まれていた。
幾程無くして、男も力尽きてしまった。
《「男」に賭けた諸君!!おめでとう!!ダービーは君達の勝利だ!!》
「「オオオオォォォォォォォォ!!!」」
歓声はより一層、盛り上がった。ピーピーと口笛を鳴らし、拍手の嵐が巻き起こる。
俺は強烈な吐き気に襲われ、トイレに駆け込んだ。
個室に篭っていると、後から入ってきた団員の話し声が聴こえた。
「いや~、やっぱ人間の虐殺は見ごたえあるな!ポケモンのとは大違いだ」
「全くだな!ところでよぉ、さっき虐殺された奴、あれ、何でポケモンを保護してたのバレたか知ってるか?」
「シラネ。たまたま見つかったとか?」
「密告【チクリ】らしいぜ・・・団員同士の・・・」
「マジかよ、可哀想に」
「何でも、あの男は以前からポケモンを保護していて、その件を他の団員に相談してたらしい。「俺はあるまじき行為をしている。このままじゃ俺とこのポケモン達は共死にだ」って。それを相談した奴が、組織の上官に密告ったらしい」
「うえぇ、おっかね。なーんでそんなこと人に相談すっかねぇ。後先のこと考えらんねぇのか」
「ま、自業自得だし、面白いもん観れたからいいじゃん。密告屋(チクリや)さん、GJ!って話だ」
二人は笑いながらトイレを出て行った。
自業・・・自得・・・・・・。その四文字が俺の精神を蝕んでいく。俺はさらに、便器にゲロをぶちまけた。
その日は、いつもとは違って重い足取りで家路を歩んだ。
ずっと考え事をしていたからだ。
俺の生活の唯一の希望、ノピカ。
ノピカと俺の関係が他人に知られたら、俺は今日、処刑された男と同じ運命を辿ってしまう。
幸い、ノピカは呪いのお陰で死ぬことは無いが、俺が死んだらノピカはどうなってしまうのか。
虐殺団体に引き取られ、身を委ねるしかなくなってしまうだろう。ノピカはいつも、腹を空かせていた。
呪いによって外傷は受けずとも、餓死することは有り得るのではないか?
だとしたら、ノピカの最期は、餓死か?一人、先立った俺のことを思いながら、死んでゆくのだろうか?
どちらにせよ、俺達に待ち受けているのは、破滅の二文字しかないのかもしれない。
家のドアを空けると、ノピカが待ち受けていた。今にも飛びついてきそうだったが、俺が玄関に入り、ドアの鍵を閉めるまで、ウズウズと我慢していた。賢い奴だ。
「ただいま」とノピカに言うと
「ぴっかぁぁー!!」と喜びの声をあげて胸元に飛びつき、頬の色が摩擦で赤くなるくらい摺り寄せてきた。
俺はノピカの頭を優しく撫でながら何度も「ただいま、ただいま・・・」とつぶやいた。
その夜は、ノピカに何の話もできなかった。ノピカとこのまま生活を共にするのは、お互いに危険すぎる。
かといってノピカを野生に返したところで、ノピカは同族のピカチュウから迫害され、再び寂しい生涯を過ごすことになる。
いずれは同族がノピカを追いやり、人間に引き渡してしまう可能性もある。
せめて野生に返すなら、呪いを解き、迫害されるリスクを排除してからの方が無難だ。外傷を受けてしまうリスクはできてしまうが、ノピカは賢い。人間に見つからず、仲間と安全に隠居できる場所や方法を、見つけられるはずだ。
俺の暗い顔を案じてか、「ちゅう~、ちゃあ~?」と心配そうに鳴いてくれた。
「大丈夫、何でもないよ・・・」
頭を撫で、俺は強がりを見せるしかなかった。
次の日、職場に行くとブータが真っ赤な顔をして、俺のところまで飛んできた。
「おい!ノビタ!!この間の模様ピカヤロウ、どうした!?」
俺は心臓が止まりそうになった。ブータの汗だくで気色悪い顔に迫られ、ドブ水と抹茶ラテを混ぜ合わせたような口臭が嗅覚を刺激したからではない。
ノピカの存在が・・・バレた・・・!?
いや・・・違う!!
ブータはここでノピカの虐殺に失敗し、俺にノピカを廃棄させたときのことを訊いてるんだ!
「あ、あぁ、ちゃんと棄てたよ。ポケモンの死体の山ん中に、モンボごとブン投げてやった」
「くぅぅうぅあぁあぁぁっ!!ッチクショウ!!ってことはもう焼却処分済みかぁぁっ!!」
「今更、あのノp・・・模様のピカがどうしたってんだ?」
口が滑って「ノピカ」と言いそうになっちまった。危ねぇ。
「あの模様ピカ野朗!!呪いだ!!呪いのせいでダメージを受け付けなかったんだ!!」
「の、呪いぃ!?」
俺はそんなこととっくに知ってるが、それに気づかれては、「何であのピカが呪われてたって知ってたんだ?」と怪しまれる。ここは知らなかったフリをするのがベストだろう。大人しく、ブータの話を聞く。
「そうだ!呪いだ!ポケモンには、ダメージを受けなくなる呪いにかかる奴がいるらしい!あの模様ピカがそうだった!!」
「だけど、今更あいつのこと気にしたって、なんにもできねぇだろ!ダメージが無いから、虐殺のしようが無かったんじゃねぇか」
「俺は!その呪いを解く方法を見つけたんだ!!」
「な・・・!?なに!?あの呪い・・・解けるのか!?」
俺の心拍数は一気に跳ね上がった。
「あぁ!!あいつのことが気になって仕方がなかった!!だから俺はあいつの異常な体質について調べ、その原因が呪いだってことを知った!!そして今度は!!その呪いを解く方法を裏サイトで知ったんだ!!今、アイツが!あの模様クソピカ野朗が居たらぁぁ!!呪いを解いてメチャクチャにぶっ殺してやれるのにぃぃぃぃぃぃ!!!!」
ブータは地団駄を踏みまくる。俺はかつて無いくらいに、心臓が高速で脈打つのがわかった。
呪いが・・・解ける!?
ここでその方法にガッツいてはダメだ。興味無さげに、探りを入れる。
「つってもよぉ~、その呪い?を解く方法ったって・・・神社行って神主さんにお払いしてもらったりとかじゃぁねェ~よなァ?金かけてまでやってやるもんじゃねぇだろう?」
「違ェよ!金なんざかからねぇんだ!!」
「(じゃあどうするってんだブタ野朗・・・!!もったいぶってねェで全部一気に言え!!)
何だよ、除霊っつったらお払いだろ?それ以外に何するんだ?血の洗礼でも浴びせたりすんのかぁ?」
「そうだ!!」
「・・・あぁ!?」
「それだ!血の洗礼なんだ!!呪われた者の同種族、10体の生き血!!それを浴びせれば呪いは解けるんだ!!」
「・・・マジ・・・かよ」
なんてこった。テキトーに言ったつもりが、ドンピシャだった。
「今!!あの模様ピカが居ればぁぁ~!!ピカ10匹の生き血ぶっかけて、すっきり爽やか純真ピカたんにしてやってェェェ~~~!!あん時の屈辱を晴らしてやるってぇのによぉ~!!ノビタ!!今すぐ模様のピカを探して来いよォ!!!」
ブータは涙目で悔しがって当り散らしてる。そんなにノピカを痛めつけたかったのか・・・。
とにかく、呪いを解く方法を知ることができた・・・。なんというタイミングの良さだ。
俺はその日、家に帰り、ノピカと話し合った。
このままノピカを保護するのはお互いに危険が及ぶこと。
呪いを説く方法が見つかったこと。
ノピカの呪いを解き、野生に返らせようと考えてたこと・・・。
俺が明日、ノピカを仕事場に連れて行き、呪いを解く。
そしたら、遠い森に連れて行き、そこでお別れをしよう。
呪いが解けたら、同族と安全な場所で仲良く暮らす。それが俺達にとって最良の選択なんだ・・・
全て、話した。ノピカは黙って俺の話を聞いてくれたが、話し終えたら、俺の胸に飛びついて泣き出した。
「ピカァァ~!チュアァ!ピカ・・・!チャァ~~~・・・ピッカァァ~・・・」
俺と離れるのは嫌だ、ずっと一緒にいたい。そう言っている。
「俺だって・・・ノピカとずっと一緒に居たいんだ・・・わかってくれ・・・ノピカ・・・!!」
強く抱きしめ、頭をなでながら俺も鳴いた。それと同時に俺は自分自身の弱さを恨んだ。
保護が発見され、処刑される事態を避けるために、この決断をしたのか。
違う。俺はノピカの身を案じるため、こうするしかないんだ!
決して自分の身を案じているわけではない!そう自分自身に言い聞かせたが、もう一人、自分の心の暗い部分が
顔を覗かせ、「お前は自分が恐ろしい目に遭うのが嫌だから、ノピカと離れるのだ。ノピカよりも、自分の身を可愛がってるのだ。」と囁いた。俺はその言葉を頭、そして心から振り払うのに必死だった。
ノピカと最後の風呂に入り、そのまますぐに床に就いた。
俺とノピカはお互いを強く抱きしめあいながら、眠りについた。
ノピカは「チュウゥ・・・チャアァ・・・」と泣くもんだから、俺もつられて泣き出し、なかなか寝付けなかった。
翌日、ノピカは俺よりも早く起きていて、朝飯を作ってくれていた。
パンにチーズとケチャップとベーコンをのせ、レンチンしたお手軽料理。
見栄えはあまり良くできていなかったが、美味しくいただけた。
「美味しいよ、ノピカ。ありがとう。本当に・・・今まで、ありがとう」
「チュウゥー!ピッカ・・・!」
もう大丈夫、踏ん切りはついた。
そんなニュアンスだ。俺は安心した。
ノピカなら、呪いが解けて同族と一緒に野生に返っても上手くやっていけるだろう。
こんなに賢く、可愛い奴なのだから。
ノピカをモンボに入れ、仕事場に向かった。
仕事は、夕方の5時に終わる。しかし、虐殺映像を投稿したい者や、仕事中だけでは虐殺し足りない者は
夜の10時まで居残り虐殺ができる。その時間を使って、ノピカの呪いを解く。
そして、遠く離れた森に連れて行き、お別れをするんだ。
夕方5時になった。団員は皆、着替えを始め、帰宅していく。居残りする者は少数だ。
ブータもかつて、居残り虐殺に励んでいたそうだが、何分、体力を消費し、次の日の虐殺コンディションに
影響がある、だとかでしっかり定時に帰る組になっていた。
俺はブータが帰るのを確認し、食堂やトイレで、ノピカの体調に気を遣いながら時間を潰した。
そして時間は、八時を回った。もうほとんど残っている者は居ない。
よし・・・始めるか。
ピカチュウを十匹、円形に設置した拘束具に、床と天井と垂直になるように、そして頭を円の中心に向け、仰向けに拘束した。その中心にノピカを立たせる。
この状態でピカチュウの口の中に小型ダイナマイトを仕込み、爆破させる。首が吹っ飛び、全員の生き血がノピカに降りかかる。
完璧だ。俺は拘束されたピカ達を起こさずに、ダイナマイトを仕込んでいく。
ノピカは同族たちの中心にポツリと立ち尽くしている。
出逢った頃とは真逆に、悲しい表情で俺の作業を見ていた。
俺との別れ、そして、これから一緒に過ごすかもしれなかった同族たちの洗礼によって、自分は新しい生き方をする。
複雑な心境だろう。
ダイナマイトの仕込が終わった。後はボタンひとつで、爆破できる。
「じゃあ、ノピカ。いくぞ・・・」
「ぴか・・・チャアァ・・・」
ノピカは泣いていた。最初は同族が殺されることなど、全く気にしていなかったノピカが、今では
それらの死を慈しみ、涙を流すようになった。
俺との生活で心境が変化したのだろうか。
ボタンを押す。ピカ達の口内から、ピッ、ピッ、と機械音のカウントダウンが鳴る。
5回なったら、ボン、だ。
俺は部屋の隅に退避した。頼む、成功してくれ・・・!!
最後のカウントが鳴り、部屋は轟音に包まれた。ピカ達は眠ったまま逝った。
首から鮮血が噴き出し、ノピカの身体を真っ赤に、一瞬で染め上げる。
「ピッカ・・・チャアァァァ・・・!!」
ノピカが目をつぶって、生暖かい鮮血の感触に耐える。
「ノピカ・・・頑張れ・・・!」
ほどなくして、ピカ達の洗礼は終わった。首からポタ、ポタ、と残りの血が滴り落ちていく。
ノピカに近寄り、額の模様が消えたか、チェックする。
模様は、一瞬赤くなり、不気味な光を放った。そしてスゥッと模様は消えた。
「やった・・・成功だ・・・!!ノピカ・・・呪いが、解けた・・・ぞ」
「ぴ・・・か、チャアァ~!」
俺とノピカは抱きしめあった。
「ノピカ・・・ノピカァァ・・・!」
「ピがッ・・・ヂュッ・・・!ビ、ガぁ・・・!」
腕の中で、ノピカが断続的に鳴きながらピク、ピク、と動く。
しまった、キツく抱きしめすぎたか?
ノピカの顔を見ると、殴られ、引っかかれたように傷だらけだった。
「ノピカ!?どうしたんだ!?」
「ヂュ・・・」
「ヂュウウゥゥゥゥアアァァァァァァァァァァァーーーーッ!!!!
ビガチャアアァァァァァァアーーーーーーーー!!!!
ビイィィッガアアァァァァァァァーーーーーー!!!!
ピガアァァァァーーー!!!ヂュウゥゥゥゥゥゥ!!!!」突然、ノピカはこれまで聞いた事の無いくらいに絶叫した。
口の中が火傷や水ぶくれでグチャグチャになっていた。
「ど、どうしたんだ!?ノピカ!!ノピカアァァァ!!!!」
「ビガッ!!ビィィッ!!!ヂャアァァァーッ!!!!!
ヂュウゥゥゥゥゥーーーーーー!!!!ピガアァァァァァーーー!!!!!!
チュアァァァーーーーーッッッッ!!!!!!!!!!!!」続いて、ノピカの右目が焼き焦げていく。手で目を押さえるが、痛みが和らぐ様子はなく、叫び続ける。
左目、さらには顔面まで焼きただれていった。
「な・・・!!何なんだ!!どうしたんだ!!ノピカアァァァァ!!!」
「ビィィガアァァァッッッッ!!!!ヂャ、ヂャアアァァァァァァ!!!!!
ヂュウゥゥゥゥゥゥーーーーーーー!!!!!!」ノピカは倒れ、ゴロゴロと暴れ出した。目が見えなくなっているようで、拘束具に身体をぶつける。
その度に痛烈な叫びを上げる。
「どうなってんだ・・・どうなってんだあぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!!!」
俺はノピカにどうすることもできず、パニックになって泣き叫んでいた。
突如、部屋のドアがガン!と蹴り開けられた。
ブータがカメラを回しながら入ってきた!
「ハアァーーーッハハハハハハ!!!ノビタァァァ!!居残り虐殺、ご苦労さぁぁーーーん!!!
やぁーーーっぱり・・・テメェ!!模様ピカを保護してやがったなァァァーーーッ!!!」
「ブ、ブータァァ!?なんでテメェがココに・・・!!!
いや、ブータ!!どういうことだ、これはよぉぉぉ!!??
呪いがっ・・・!!呪いが解けねぇじゃねぇかぁぁぁ!!??」
俺はノピカを保護していたことなど、どうでも良くなっていた。
今はただ、ブータが俺に教えた呪いを解く方法・・・これによって、ノピカが不可解なダメージを受けている訳を聞くことのほうが重要だった。
「ギャアァーーーハハハハハハ!!!ノビタァァ!!ピカたんの呪いは、確かに解けたんだよ!!
だがなぁ・・・「ダメージが受けなくなる呪い」なんて聞いたことあるかぁぁ!?
どんっなクソゲーや良ゲーRPGでも、俺はそんな呪い見たことねぇぇ!!!
呪いは常にデメリットしか生まねぇんだ!!そいつの呪いは!!生き物から嫌われ、孤独を味わう!!
そして!生きているうちに受けた痛みが蓄積され、呪いを解除した瞬間に一気に払い戻されんだよぉぉぉっ!!!
ザッッマーーー見ろォォォォォ!!!糞模様ネズミィィィィィ!!!
その無様な最期を俺は今、全世界生中継してやってんだぜぇぇぇーーー!!感謝しろよォォォォ!!!!」
ブータはノピカに蹴りを入れ、壁に打ち当てた。
「ベガヂャアァァァッッ!!!!!」ノピカは血を吐き、床に落ちた。
ノピカは性器がグチャグチャになっており、肛門も皮膚がケロイド状にただれて、前後の穴から肉片とドス黒い血が流れていた。
俺はとんでもないことをしてしまった。呪いを甘く見ていた。俺が調べたサイトには「これまでに呪いが解けた前例は無い」と書かれていた。だから、呪いが解けた直後、今まさに目の前で起こっている地獄絵図を予期することができなかった。
「ノビタァァ!!ありがとよォォ!!コイツを保護してくれててよォォーーー!!
テメェ、判り易いんだよ!!ここんトコ、ピカ達を虐殺する気が無くなってるのかと思ったら、
保護した人間の処刑を見てガクブルしてるとことかよォォッ!!!
ピーンときたぜぇ!?あの模様ピカを保護してるってなぁぁぁーーーっ!!
だから裏のオカルトサイトで、呪いの解除方を見つけてやって、お前に教えたやったんだよォォォーーーッ!!!
まさか、こぉーーーんなに上手くいくとは思わなかったでチュウゥゥーーーーーッ!!!
糞生意気な模様ピカがこうやって、のたうち回ってるのは圧巻ダゼェェェ-----ッッ!!!!
俺が糞模様ピカに与えるはずだったダメージ!!次は何だったっけなぁぁぁ!!?」
ブータがノピカにした虐殺法・・・次は、確か、皮剥ぎからのタワシ・・・
その次は・・・四肢切断・・・!!!
「ビガガガァァァーーーーッッッっヂュウゥゥゥアァァァァァァーーーーーー!!!!!
ピッッッッガアァァァァァァァーーーーーーッッッッ!!!!!!!」ノピカの皮は削がれたように剥がれ落ち、赤く黒光りしたスジや筋肉がむき出しになっていった。
そしてその皮膚に幾重ものの線が刻まれていく。絶叫は増していく。
「ノピカァァァーーーーーッ!!!!
オイ!!ブータァァ!!止めろ!!止めてくれぇぇぇぇーーーーーっっ!!!
止める方法があんだろぉぉぉ!!??」
「ねぇぇぇーよ!!!バァーーーーッカ!!!!ハハハハハハァァーーー!!!
自業自得なんだよ、ノビタァ!!虐殺団員がピカチュウなんて糞ポケを保護したりすっからよォォーーー!!」
「悪かった!!俺が悪かったぁぁぁ!!!止めてくれ!!ノピカだけは助けてくれぇぇぇーーーー!!!!!」
ブータは俺の懇願を無視してビデオカメラをノピカに回し続ける。
そして・・・ノピカの四肢がジリジリと身体から離れていった。
「ビッビッビィィィィッガァァァァッッッッ!!!!
ヂュウゥゥゥアアァァァァァァァァアアァァアアァァァアァァァアァァァァーーーーー!!!!!」俺はノピカの手足を抑えようと駆け寄った、が、ブータに蹴りを入れられて吹っ飛んでしまった。
目と鼻の先で、ノピカが肉塊に変わっていく。
「ビッガァァァァァァァァァァ・・・・・ヂュ・・・ヂュウゥアァァァァァァ・・・・・!!!
ビ、ノ゛・・・ビィ・・・ガッ・・・ヂュウゥ・・・」ノピカは耳、両手足が無くなり、ダルマのような姿になった。最期は、俺の名を呼んでいた気がした。
ノピカが・・・死んだ・・・・・・・
俺の愛した、可愛いノピカ。生涯を共に過ごしたい。
そう心から思わせてくれた、たった一人の、家族。
俺が、殺した・・・?
俺の、せいで・・・?
「ノ、ノピカ・・・ノピカァァァァァァァァァ!!!!!!
あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!
うううぅぅぅぅぅああああああああああああああああ!!!!!!」俺は力いっぱい、叫んだ。ノピカは今日、同族のもとで新しい生活を歩むはずだった。
それができなくなった。初めから、呪いを解除したときのリスクを知らなければ・・・!!!
せめて、呪いを解かずに野生へと返していれば・・・!!
ノピカの苦しむ様を見たいがために、解除法を俺に教えやがった・・・ブータ!!!!!
「ブーーーータァァァァァァ!!!!!テメェェェェェェ!!!!!!」俺はブータに殴りかかった。顔面に向けて右手を振ったが、腹にカウンターの蹴りを喰らって、
ノピカの傍に吹っ飛ばされた。怒りに身を任せても、圧倒的な対格差は埋められなかった。
ブータはカメラを置き、チェーンソーを持って俺の腹にのしかかった!!
「テメェェ・・・ノビタ・・・。先輩に向かって殴りかかるなんて・・・度胸あるじゃねぇか・・・この虐殺大先輩に向かってよォ・・・
糞ピカの保護がバレるのかとビクビクしてた昨日までとは違うねぇぇ・・・」
ブータはチェーンソーの電源を入れ、ギャンギャンと鳴らし始めた。
「前々からテメェは気に食わなかったんだ・・・加えて、糞ピカの保護・・・重罪だぜ?
だから・・・俺が・・・
制裁してやらあぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーッッッ!!!!!!」ブータはチェーンソーの刃を俺に向けて、真一文字に振り下ろす。
もうダメだ・・・俺も、死ぬんだ・・・
ガキン!!と金属音が部屋に鳴り響いた。
暗闇。俺の視界を覆い尽くしている。
俺は死んだのか?
絶叫が聞こえる。うるせぇな・・・。あ、俺の絶叫か・・・?
ブータにチェーンソーで頭を切断されて・・・おれ自身が、叫んでいるのか?
いや、違う・・・俺は・・・生きてる!?
目を・・・恐る恐る開いていく・・・
「ぎいぃぃぃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁあぁぁあぁぁぁあああぁぁ!!!!!
アァあっッ!!!あぁああぁぁあーーーーーっっっ!!!!」ブータが頭を抑えて叫んでいる。額にはチェーンソーの刃先が突き刺さっていて、血が滝のように流れ落ちていく。
「てんめぇぇぇぇああぁぁぁあぁぁああぁあぁあ!!!!!
ノビタアァァアアァァァァァ!!!!
ぐうぅぅぅぅううぅぅぎいいぃぃああぁぁっぁあぁぁあ!!!!」
なんだ・・・?なんでブータの額にチェーンソーが突き刺さってんだ・・・?
俺、なんか、やったか・・・?
ブータはそのままヨタヨタと後方へ進み、バランスを崩して硫酸などの化学薬品が置いてあるテーブルに倒れ掛かった。
「ぎいいぇぇぇぇぇぇぇぇええぇぇぇぇぇああえあえぇあええぇえぇエえあえああああああぁぁぁ!!!!!!」
薬品と共にブータは床に倒れてしまった。硫酸がブータの腹、頭を溶かしていく。
「ブ、ブータ・・・」
俺は何が起こったのかわけがわからないまま、ブータビクンビクン、と痙攣しながらが息絶えるのを見届けた。
そして、ノピカがバラバラになった死体を手でかき集め、またひとしきり泣いた。
数日後、俺は何千人もの観衆の視線を浴びながら、一段ずつ階段を上り、ステージの上に立った。
目の前には国際虐殺委員会会長のおっさんが訝しげに俺を見据えている。
「あー、関東地区、虐殺組織、団員ナンバー215号。貴殿は、秀でて残虐な手法により、ピカチュウを虐殺させ、国民がこれまでにポケモンから受けた雪辱を晴らした。その敬意を、此処に称す。」
お辞儀をして、賞状を受け取る。小学生のときの暗算コンクール以来だ。賞状を貰うのは。
怪訝な表情で俺を見つめる観衆から、パチパチとまばらな拍手が起こる。
ノピカが死んでいく様子を撮ったビデオが、全世界虐殺動画の、最優秀賞を受賞したのだ。
録画者のブータは、この世にいない。だから賞金と名誉は俺一人のものとなった。
ブータが自爆する様子がビデオに映っていたお陰で、俺は殺人罪などには問われなかった。
また、ノピカを保護していた件は、「ノピカを計画的に虐殺するための手段として、仕方なく保護していた」
というように結論付けられ、これもまたスルーされた。
受賞式が終わり、インタビュアーが俺にマイクを向ける。
「団員ナンバー215様!おめでとうございます。ひとつ、質問してもよろしいでしょうか!?」
「・・・はい?」
「素晴らしいほどの虐殺映像をお披露目していただき、ありがとうございました!
その映像の中では、団員ナンバー236様にチェーンソーを振り下ろされたのに、何故あなたは無傷で、ナンバー236様の額に刃が突き刺さったのですか!?あの時、いったい何が起こったのでしょうか!?」
「・・・知りません。自分でも、何が起こったのか、さっぱり・・・
彼の手元が狂ったんじゃないでしょうか」
「そうですか・・・!ではもうひとつだけ、質問させてください!!」
「・・・はぁ。」
「あなたはあのピカチュウを虐殺するために、計画的に、自宅で保護していたのだと伺いました!
保護していく過程で、情がうつったり、虐殺を辞めようかと、少しでも思ったりはしましたか!?
」
無視して、足早にその場を去った。
それからまた数日が経ち、俺は仕事をやめ、人里離れた森の中に家を建てた。
虐殺動画の賞金で、俺は一生金に困ることは無くなった。
それにしても、ニートってのは本当につまらない。
仕事をしていたときは、その自由な生活に少し憧れたりもしたもんだが・・・。
しかしこう、『世間からの嫌われ者』になってしまっては、街中に出てゲーセンやパチンコで遊ぶのも億劫なことだ。
だから、俺は、これから人と交じわらずに生きていくことにした。
・・・俺は、呪われていた。
ブータが死んだ後、警察を呼び、連行された。その時、警察署内のトイレで血のついた顔を洗い、鏡を見たとき・・・俺は驚愕した。
ノピカの額にあった模様が、俺の額にできていた。
まさか、と思って皮膚をちぎったり、噛んだりしても、痛みは感じなかった。
ブータにチェーンソーを振り下ろされて無傷だったのも、このお陰だったんだな・・・。
しかし、呪いによって人々から忌み嫌われる、というのは想像以上にキツいものだった。
俺が発する醜悪に満ちた雰囲気、オーラを他者が感じ、不快感を顕にする。
元々、人と接するのが苦手な俺は、それがたまらなく嫌だった。
特に授賞式の時は本当に苦痛すぎて吐くかと思った。
だから俺は、誰とも接することの無いよう、独りで生きていくことにした。
それと、もう一つ。俺には、ある変化が起こった。
真っ暗闇の空間。
床と垂直に、大の字に手足を拘束される。鎖の冷たい感触が伝わってくる。
小さい影がチェーンソーの音を発しながら近づいてくる。その音は周りの深い闇の中に吸い込まれていく。
影の主は、ノピカだ。チェーンソーを鳴らしながら、俺をジッと見据える。
そして、怒りに満ちた叫び声を上げて俺に飛び掛かり、刃を振り下ろす。
刃は、俺の体をスルリ、と通過する。ノピカが驚いた様子で何度も、何度も、
何度も何度も何度も何度も・・・俺に刃を振り回す。
やがて、ノピカがゼェゼェと息を漏らす。その途端、果物が腐っていく様子を早送りにするかのように、
ノピカの身体が朽ち果てていく。
ノピカはあの時のように、絶叫する。
恨めしそうに、俺を睨みながら、涙を流し、血を吐き、叫び続ける。
そして、グチャグチャの肉塊となって消滅する。
ノピカの絶叫は闇に吸い込まれること無く、俺の頭の中で鳴り響いてる。
毎朝、俺はそんな夢を見て、目を覚ます。
そして不意に、胸に激痛を感じ、押さえつける。
「ううぅ
ぅぅうぅぅぅうぅうぅぅぅぅぅ・・・・・・・・ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
うわあああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ・・・・・!!!!!」
俺は、呪われたことによって、身体に痛みを感じなくなった。
だけどな、ノピカ・・・
・・・痛いんだ。
これまでに感じたことの無い、痛みに襲われるんだよ。
身体じゃなく・・・心だ。
心が、裂けるような激しい痛みに襲われるんだ。
どうやっても、消える気がしない、痛み。
これは、お前から伝播した呪いなんかのせいじゃない。
愛するお前を、失った哀しみ・・・それによって起こる、痛みなんだ・・・
ノピカ・・・・・・・・・・・・・・・・
おわり【あとがき】
この作品は「できるだけ小説っぽく書いてみよう」と意識し、これまでの作品の中でも
かなり構想を練りました。それによって地の文が長くなり、書き終わるのに十数時間はかかったりと
本当に苦労しました。小説家の人ってすげぇんだなぁ、と改めて実感しました。
また、ノピカがダメージを受ける場面でできるだけインパクトを与えるように、
それより手前の場面にあるピカ達の断末魔のフォントや鳴き声を控えめにしたりと、
演出も割と凝っています。
深夜2時過ぎにこのSSをVIPに立てましたが、時間帯のせいもあってか、
あまりレスがつかず、独りで淡々と投下したのは良い思い出です。
- 2012/07/31(火) 20:38:41|
- ピカ虐(長編)
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