イッシュ地方で開催されたポケモンリーグにて芳しくない成績を収めたサトシ。
彼はマサラタウンに帰郷し、今回のリーグ戦の自己反省をしていた。
サトシ「チクショウ…また今回もイッシュリーグでベスト8止まり…俺はいつになったらマスターになれるんだ!?」
サトシ「俺のポケモンに対する情熱、信頼は間違っちゃいないハズ…一体何が足りないんだ…」
サトシ「・・・!もしかしたら俺は、ポケモンの特徴や性質を知り尽くしていないのかもしれないな・・・。
とりあえず、ポケモンの強さについてネットで1から学びなおすか・・・」
グーグル検索でポケモンの強さについて検索するサトシ。
サトシ「・・・ん?何やら興味深いサイトがあるぞ・・・『ポケモン能力総合ランキング』・・・?
へぇ、ポケモンの強さのランキングが見られるのか。面白いな・・・。一位はアルセウスかぁ。
ピカチュウは何位なんだろ・・・?」
サトシは強さランキングでピカチュウの名前を探す。
サトシ「お、いたいた。どれどれ、ピカチュウの強さランクはっと・・・」
カチッサトシ「え・・・・・・・・・え・・・・・?
あれ・・・ピカチュウって・・・・
弱くね???」サトシの脳内でピカチュウと共に旅をしてきた記憶が呼び起こされる。
サトシ「これまでの戦闘経験からして、アイツは俺のパーティの中でも最強クラスの強さであるはずだ・・・。
だ、だけどこの基本パラメータ成績は・・・いくらなんでも雑魚すぎる!!
これじゃいくら鍛えても、雑魚ポケであることに変わりないじゃないか!」
憤怒し、ワナワナと震える拳で机を叩くサトシ。
サトシ「そういえばピカチュウは・・・イッシュリーグの予選でシューティーのジャローダにフルボッコされてたし・・・
何かとアイツはロケット団のトラップに引っかかって連れ去られる・・・」
サトシはベッドの上でのん気に昼寝をしているピカチュウに目を向ける。
その姿は、たくましい強さを誇るポケモンなんかには到底見えなかった。
短い手足を大の字に伸ばし、寝息と共に腹を上下させているピカチュウは、ただのマスコットキャラにしか見えない。
サトシ「お、俺は今まで・・・こんな雑魚にポケモントレーナーの命運を託していたって言うのか・・・」
サトシは自分自身に、そして、今まで大いに信頼を寄せていた相棒に失望したのだった。
そんなこともつゆ知らず、ピカチュウは気持ちよさそうに寝言を言い、ベッドにヨダレを垂らした。
ピカチュウ「チュウゥ~ウ・・・チュスゥ~~~ウ・・・ピカムニャア~・・・」ゴロリ・・・
サトシ「コイツは・・・もうダメだ・・・」
サトシは部屋を出た。ピカチュウはその夜、いつまでもベッドの上で眠りこけていた。
~次の日~
朝、ピカチュウは目を覚ました。それと同時に、聞き慣れない仲間達の掛け声が外から聞こえてきた。
窓から外を覗くと、そこには朝早くから特訓に勤しむサトシと仲間達の姿があった。
サトシ「よーしお前ら!まだまだいくぞー!次は重量上げだ!!」
カメックス「カメェー!!」
リザードン「ジャァーーー!!」
サトシ「オラ、フシギバナ!!モタモタすんな!!」
フシギバナ「フッシィー!!バァナッ!!」
ピカチュウは慌てて窓を開けて外に出た。そして皆のもとへと駆け寄った。
ピカチュウ「ピカピーーー!!チャアァー!!」
寝坊し、特訓への参加が遅れたことを詫びるピカチュウ。
皆は一瞬だけピカチュウに目を向ける。が、何も言わずにすぐにトレーニングを再開させた。
サトシ「オラ、お前ら!よそ見すんな!トレーニングに集中しろ!」
一同「ギャース!」
ピカチュウ「ピ・・・ピカピィ!ピーカァー!?チャー!!」
ピカチュウは自分が寝坊したことに皆が腹を立てているのだと悟った。
自分を無視されたことに困惑し、サトシのズボンの裾をグイグイと引っ張る。
サトシ「・・・ッ!!ウッゼェんだよこのクソネズミ!!」
ピカ「チュアアァッ!!?」
サトシはピカチュウの身体を蹴り上げた。思いもよらぬ暴挙に叫び声を上げるピカチュウ。
一同は冷たい目でピカチュウを見据えている。
ピカチュウ「ピ・・・ピーガー!!ピガッチューーー!!」
サトシ「アァ~~~?『寝坊したくらいで意地悪するなんてひどいでチュ!!』だとォ~~~???
なーーーに調子こいたコトぬかしてんだテメーーー!!」
ピカチュウ「ピカピィ!?」
サトシの気迫にたじろぐピカチュウ。
サトシ「クソネズミ・・・テメーにはもう愛想が尽きたんだよ!!
テメーなんかが一緒に居たせいで、俺は何度もポケモンマスターの称号を掴み損ねてきたんだ!!
いつまで経っても強くなれない雑魚ポケ野郎に用は無ェ!!さっさと俺の前から消えろ!!」
ピカチュウ「ピ・・・ピカピ・・・?チャアァ・・・???」
目から涙をこぼし、がくりと地に手を着くピカチュウ。それでもサトシの目を見つめ続けている。
サトシ「あーあー!!雑魚ポケなんかを相手にしてたら雑魚が感染っちゃうゼ!!
ホラお前ら!!トレーニングを続けろ!!」
ピカチュウ「ピカピー・・・!ピカ・・・チャアァーーー・・・!!」
カビゴン「ッゴン!ッゴーン!!」
サトシ「いいぞカビゴン!その調子だ!!」
オオスバメ「シュバァ!!ッシュバァー!!」
サトシ「今日もキレキレだなオオスバメ!!」
カイリュー「リュー!!リュウゥーーー!!」
サトシ「カイリュー!そのパワフルっぷりを次の試合で活かそうな!!」
ピカチュウ「ピカチャアァーーー!!ピーカチューーー!!」
サトシ「よーしみんな!!次のトレーニングに移るぞ!まだまだヘバるんじゃねーぞー!!」
一同「ギャーーース!!」
ピカチュウ「ピ・・・ピカ・・・チャアァ・・・」
自分の存在をアピールしても無視され、ピカチュウはトボトボと近くの木の陰に座り込む。
『これは何かの間違いでチュ・・・悪い夢でも見ているんでチュ・・・』と自分に言い聞かせ、涙を拭った。
皆のトレーニングは暗くなるまで続いた。
ピカチュウは泣き顔でそれを見続けていたが、皆はピカチュウを気にかけるどころか、侮蔑の表情で見下し、無様な彼を嘲笑していた。
イラスト:フォロワーの あくあ様 より
サトシ「よーし、お前ら!今日は良くがんばったな!!
明日は今日よりもミッチリと鍛え上げてやっからな!!覚悟しておけよ!!」
一同「ギャーーース!!」
サトシ「ははは!イイ返事だぜ!よし!今日はうまい飯を食わせてやっからな!!家に帰るぞ!!」
一同はトレーニング機材を片付け、いそいそとサトシの家に向かう。
慌ててその後を追うピカチュウ。
しかし、ピカチュウが家に入る前にドアが閉められ、鍵までかけられてしまった。
ピカチュウ「ピカピー!?ピ-カァーーー!?」
激しくドアを叩いて『僕も入れてくだチャアァー!』と懇願するピカチュウ。
しかし、数秒後に家の中から一発だけ、強くドアを叩き返す音が鳴った。
それを機に、ピカチュウは家に入れてもらうのを諦めた。
外はすっかり暗くなっていた。家の窓からは明るい光が漏れている。
一同はサトシの手料理を食べ、仲良く談笑しあい、トレーニングでの疲れを癒していた。
窓からその様子を覗き込み、またも涙を流すピカチュウ。
一同の楽しそうな会話の中には、「ピカチュウ」という単語は一切出てこなかった。
まるで皆が自分の存在を忘れ去ってしまったかのようだった。
空腹を思い出す。朝から何も食べていなかった。
トボトボと近くの森に入り、木の実を探して食べた。
いつもサトシと一緒に居た自分が、こんな惨めな想いで木の実を口にする日が来るとは思いもしなかった。
雨風を凌げる寝床を探し、身体をうずめて目を瞑った。そして今日の出来事全てが夢であってくれと願い、眠りに就くのだった。
目を瞑っても、瞼から涙が溢れて止まらなかった。深い夜の闇に、自分の心を食いつぶされているかのようだった・・・。
イラスト:フォロワーの あくあ様 より
次の日、ピカチュウは早くに起床し、サトシの家の庭に向かった。
一同がトレーニングを開始する前に機材の準備をし、自分の少しでも誠意を見せるためだった。
まともな食事もせず、皆から見放される恐怖と不安で寝不足になっていた。そんな状態で機材の準備をするのは辛かった。
それでもピカチュウは、再び皆との輪に入り、サトシの相棒として認め直してもらうため、小さな身体で全ての機材を準備し終えた。
ピカチュウ「チャア・・・ピカ・・・アァ・・・」
朝からすでに満身創痍になったピカチュウ。仰向けになり、地面に横になった。
その時だった。サトシがポケモンたちを率いて家から出てきた。
ピカチュウは勢いよく身体を起こし、サトシ達の前に駆け込み、土下座をした。
ピカチュウ「ピカピカチャアァ!!ピカピイィ!!」
そして、昨日の寝坊の件を謝罪し
「自分の意識が甘かった。もう一度自分をパーティーに入れてくれ」と懇願したのだ。
そんなピカチュウを無言で見下すサトシたち。
ピカチュウ「ピカピー!!ピカッチュー!!」
皆のために機材も準備した。自分も皆のトレーニングに付き合わせてくれ!
ピカチュウは必死になって誠意を見せた。
サトシ「・・・よーし、みんな!!今日は機材を一切使わずにマラソンで体力つくりだ!!」
ピカチュウ「ピカピガアァ!?」
サトシ「早速、出発だぜー!!」
全力で駆け出す一同。先頭のリザードンが涙目になったピカチュウを突き飛ばす。
鈍い声をあげて数メートル吹っ飛び、腹を擦りむくピカチュウ。
追いかける気力も体力も無く、そのままうつ伏せてシクシクと泣いた。
いつの間にか、そのまま疲れ果て、気絶するように寝てしまっていた。
ピカチュウが目を覚ましたのは、日が暮れ始めた頃だった。
ちょうど皆がマラソンから戻り、帰宅するところだった。
サトシ「今日も頑張ったな、お前ら!」
一同「ギャース!!」
サトシ「ははは!よーし、今晩もたっぷりと美味しい飯を食わせてやるよ!!」
ピカチュウ「ピカピ・・・チャアァ・・・ピカァ~・・・!」
サトシに向かって鳴くピカチュウ。ただ少しでも、自分に目を向けてもらいたかった。
ほんの少しでも、自分のことを気にかけて欲しかった。
そんなピカチュウの想いを蹂躙するかのように、サトシ達はピカチュウに目もくれずに家の中へと入っていってしまった。
ピカチュウは身体を起こす。朝、自分が勝手に用意した機材を片付けるためだ。
片付けなければ、また反感を買うに違いない。
自分の何倍もの高さと重さの機材を持ち、力を込めて動かした。
ピカチュウ「ピッガ・・・!!ッチャ!?ッチャアァーーー!!」
昨晩からの疲労が災いし、手元が狂って機材を倒してしまった。
とてつもない金属音が鳴り響く。機材の一部が粉々に砕け、辺りに散らばった。
その音を聞きつけたサトシが家から飛び出し、鬼のような形相でピカチュウに猛スピードで駆け寄ってきた。
ピカチュウが慌ててサトシの方を振り返った瞬間、腹部にとてつもない衝撃が走る。
ピカチュウ「ヂュッゲェェェッ!!!」
サトシ「このクソネズミーーー!!てめーふざけてんじゃねーぞォ!!!!!!」
蹴りを喰らって吹っ飛び、仰向けに地面に倒れる。
サトシはマウントポジションを取り、ピカチュウの身体を激しく殴打する。
サトシ「この機材がいくらしたと思ってんだ!?アア!?
俺達の気を引くためにわざと壊したんじゃねーだろうなコノヤロー!!」
殴られるたびに口から血と悲痛な声を上げるピカチュウ。
サトシ「いつまでもウザッてぇヤツだなテメーはよー!!
殺す!!殺す!!!殺してやらぁああああああ!!!」
ピカチュウ「ッピ・・・!ッピッガアァ!!
ヂュ・・・ヂュウゥ~~~~~~~~~~~ッ!!!」サトシ「ギャアアアアアアアアアアッ!!!!!!!」なんと、とっさの防衛本能から、ピカチュウはサトシに電撃を喰らわせてしまった。
サトシは倒れ、ピカチュウはしまった、と思いサトシの身体を揺さぶる。
家からサトシのポケモン達が凄まじい気迫で駆け寄ってくる。
その表情には殺意が込められていた。
ピカチュウ「ッピイィー!!ピーーーガーーーーー!!」
一同「ッギャアアアアアアアアアアアァァァァァァス!!!!」リザードンが右耳に噛み付き、力いっぱい噛み付いた。
フシギバナがツルを左耳に絡ませ、もの凄いパワーで締め付ける。
カメックスは尻尾に噛み付いた。
これまで感じたことの無い激痛に泣き叫ぶピカチュウ。
三匹が一斉に声を上げると、ピカチュウの両耳と尻尾は引き裂かれ、血を噴き出した。
ピカチュウ「ッチャアアアアアアアアアアア!!!!!!」オオスバメが突風を起こし、ピカチュウを森の奥へと吹き飛ばした。
森の中の湖に墜落したピカチュウは、必死にもがいて岸へと上がった。
呼吸を落ち着かせ、傷ついた身体を洗い、喉を潤した。
ピカチュウは途方にくれる。
正当防衛とはいえ、サトシに傷を負わせた自分がパーティーに戻れることは無いだろう。
仮に戻れたとしても、両耳と尻尾を失い、身体のバランス感覚を失った自分が戦闘で活躍することは不可能だ。
もはや自分の居場所はどこにもない。引き裂かれた耳と尻尾が激しく痛む。心にも同じような痛みを感じていた。どうしようもない絶望に駆られた、その時だった。
近くから、同族の鳴き声が聞こえた。その方向へと足を運んでみると、ピカチュウ族の集落を見つけた。
ピカチュウは何も考えず、集落へと足を踏み入れた。ただ、誰かと心を通わせたかった。
信頼していたトレーナーに捨てられ、凄惨な仕打ちを受けた自分を、心を、誰かに救って欲しかったのだ。
自分を発見した集落のピカチュウ達は驚きの声を上げ、激しく威嚇の声を上げた。
ピカチュウ「ピカピー・・・!ピカチャアァ~~~・・・!ピカピカピーーー!!」
自分に敵意が無いこと、トレーナーに捨てられてここまで来たことを言明する。
集落のピカ達は「うるさい!人間なんかに飼われていたよそ者は近寄るな!!」と拒絶し続けた。
生まれたばかりの子供ピカチュウは、傷だらけで歪なシルエットをしたピカチュウに恐れ、泣き喚いた。
ピカチュウ同士の争議はしばらく続いた。それを止めたのは、一匹のメスピカチュウだった。
「ぴかぴかちゃあ!!ぴかっちゅーーー!!ぴぃかぁーーー!!」
心優しい性格なのだろう。
森の外から来た傷ついたピカチュウを、自分達の仲間に入れてあげようと主張したのだ。
メスピカはピカチュウに駆け寄り、木の実を差し出した。
心が晴れゆく想いだったのだろう。涙を流し、ピカチュウはメスピカに何度も礼を言った。
集落のピカチュウは面白くなさそうな顔でそれを見ていた。
ピカチュウは、集落の者から完全に受け入れてはもらえなかった。
歩いていると、周りから自分の陰口が聞こえてきた。寝ている最中に小石を投げつけられた。
不自由な身体で木の実を採ろうとしても、誰かが手伝うどころか、ピカチュウが採ろうとした木の実を横取りされた。
数々の嫌がらせに、ピカチュウは黙ってやり過ごすしかなかった。
しかし、それでもピカチュウに優しく接してくれる者はいた。メスピカだ。
彼女は、他のピカチュウとは違い、友好的に接してくれたのだ。
そのメスピカ一人の存在は、ピカチュウの心を大きく支えてくれた。
つかの間の安息を手に入れたピカチュウ。しかし、彼の存在がまたも悲劇をもたらすことになる。
夜が更け、集落のピカチュウ達は皆、眠りについていた。その時だった。
凄まじい絶叫があちこちから響き渡ったのだ。
木の寝床から起き出したピカチュウ。彼が目にしたのは。真っ赤に燃え盛る火の海だった。
「ッギャアァーーー!!ギャアァーーーーーーース!!!!」
ピカチュウ「ピッ・・・!?ピアピカアァ!?」
サトシのリザードンだった。
数日前に電撃を喰らったサトシはピカチュウを激しく怨み、オオスバメに上空からピカチュウの住処を見つけさせた。そして、集落にピカチュウが居ることを知り、夜のうちに襲撃させたのだ。
カイリュー「リューーー!!リュウアアァァァァァァーーーッ!!!」
リザードンだけでなく、カイリューもいた。破壊光線でピカチュウ達を惨殺していく。
火だるまになったピカチュウが泣き叫びながら焼け死んでいく。我が子を抱えたまま焼け死ぬピカチュウも居た。
卵を抱えて逃げるも、カイリューの尻尾で払われて転ぶ親ピカチュウ。卵を木にぶつけて割ってしまい、絶叫する。
ママとはぐれた子ピカが、泣き喚いている。それを見つけた親ピカが駆け寄るも、子ピカはカイリューに踏み潰された。
怒りで電撃を放つ親ピカだが、破壊光線であっけなく返り討ちにされた。
生き残った数匹のピカチュウが、駆け寄り、こうまくし立ててきた。
「お前を捨てた人間がお前を狙って来たんでチュ!!」
「やっぱりお前は疫病神だったんでチュ!!」
「お前のせいでこうなったんでチュ!!許さないでチュ!!」
ピカチュウは呆然とし、何も言い返せなかった。
そしてリザードンの炎が迫ってきた。
「ピーーーーーーーッ!!」と泣き叫び、再び散り散りに逃げ惑うピカチュウたち。
しかし、すぐさま姿を捕らえられ、爪で八つ裂きにされ、炎で焼かれて灰すらも残らなかった。
我に返り、ピカチュウも逃げ道を探した。
その時、あのメスピカが木の陰で泣いているのを見つけた。
彼女は、尻尾が無かった。リザードンに切り裂かれ、命からがら逃げて生き延びたのだ。
「ぴかぴかちゅ・・・!!ぴがっぢゅうぅ!!!」
メスピカは、ピカチュウに怨言した。
「あの時、自分がアンタのことを受け入れていなければ・・・
アンタがこの集落に来なければ、こんなことにはならなかったのに」と・・・。
ピカチュウは、全てを悟った。もう自分の人生には、温もりも愛も、何も得られることは無いのだと。
だから、他人がどうなってもいい。自分のために他人を利用することを許されたのだと、自分の中で悟った。
次の瞬間、メスピカは絶叫を上げていた。
ピカチュウがメスピカの右耳に噛み付いたのだ。力を込めて、その肉に歯を喰いこませた。
暴れて抵抗するメスピカだが、数秒後には右耳を失った。
ピカチュウは続けて、左の耳にも歯を立てた。「お願い、やめて!!」と泣き叫ぶメスピカ。
彼女は左耳も食いちぎられ、ピカチュウと同じく、『両耳と尻尾を無くした歪なシルエット』となった。
激しい痛みに気を取られ、メスピカはピカチュウがこのような奇行に及んだ理由を理解していなかった。
ピカチュウは彼女の身体に体当たりを喰らわせた。メスピカはリザードン達の方へと吹っ飛んだ。
そしてピカチュウは、森の出口に向かって走り去った。
背後からは、リザードンとカイリューに見つかったメスピカの断末魔が響き渡っていた。
ピカチュウはメスピカを自分と同じ姿にし、身代わりとしてリザードン達を欺いたのだ。
数分後には、森の炎はカメックスによって消火された。
数ヵ月後、ピカチュウは見知らぬ町を彷徨っていた。
ボロキレの布で身を包み、人の目を極力避けて生活していた。
昼間は薄汚いドブで寝過ごし、夜遅くには町のゴミ箱を漁って空腹を満たしていた。
そんな生活を続けていた彼だが、サトシと過ごしていた幸せな日々を毎晩のように思い出し、涙を流していたのだった。
昼間、寝床で寝ていたピカチュウは、人々のざわめきで目を覚ました。
何事かと建物の間から顔を出すと。電気屋の大きなショーウィンドーに飾ってある大型テレビの中継に人だかりができていた。
なんと、全世界規模のポケモンリーグ決勝戦の生中継だった。
そのテレビに映っているのは、かつて自分のトレーナーだったサトシ。
ピカチュウは目を見開き、テレビの近くへと駆け寄った。
ナレーター「さぁさぁ!!全世界の皆さん、お待たせいたしました!!全世界ポケモンリーグ決勝戦!!
この戦いに打ち勝って世界一のポケモンマスターの称号を得るのは~~~ッ・・・」
カントー地方、マサラタウン出身のサトシ選手か!?!?!?
それとも!?
テキトーニ地方、キメタタウン出身のカマ・セイヌ選手かぁー!?
全人類が注目する決勝戦・・・開始イィーーーッ!!」
カマ・セイヌ「この戦いが本番だぞ、みんな!!ボールから出て来い!!」
カマ・セイヌ選手が6つのボールからポケモンを一斉に出す。
なんと、それらのポケモンは全て、ピカチュウだったのだ。
父ピカ「ピッカアァーーー!!」
母ピカ「ぴかちゃあぁーーー!!」
長男ピカ「ッチューーー!!」
長女ピカ「ぴーっかっぴ!!」
次男ピカ「ピカピカピーカー!」
次女ピカ「ぴーかっちゅ!」
実況「おぉーーーっと!!カマ・セイヌ選手のピカチュウファミリーが一斉に姿を現したー!!
なんと、手持ちのポケモン全てがピカチュウというカマ・セイヌ選手!
このイカれたパーティ編成で決勝戦まで登り詰めたピカチュウ家族とカマ・セイヌ選手!!
真の絆と実力はどう発揮されるのかーーー!?」
サトシ「・・・絆?くだらねぇ・・・。あんな雑魚ポケでここまで登り詰めたってのかよ?
アンタ、相当運が良かったんだな。もしくは、これまでの対戦者が雑魚だったのかな?」
カマ・セイヌ「なんだと!?ポケモンの真の強さは、トレーナーとの絆だ!
ポケモンは絆によって強くなるんだ!!
僕たちは君みたいなトレーナーなんかには絶対に負けない!!
なぁ、みんな!!」
ピカ家族「「ッチューーーーーーーー!!!」」テレビ画面を見つめるピカチュウは、どうか、カマ・セイヌ選手率いるピカ家族に勝利を収めて欲しいと願った。
そうすれば、トレーナーとの絆が真の力なのだとサトシは思い直してくれると確信したからだ。
もしかしたら、今まで強い絆で結ばれていた自分のことを思い出し、再び迎え入れてくれるかもしれない、と・・・。
淡い希望と期待を心の底で膨らませた。
サトシ「フン、ポケモン自身の強さこそが全てだ。
絆を信じたところで雑魚ポケが強ポケに敵うはずが無ぇ・・・!
行けッ!!リザードン!!」
リザードン「ギャアァーーーーーーーッス!!!」
カマ・セイヌ「パパピ!まずはお前からだ!!かみなりを落としてやれ!!」
父ピカ「ピ~~~ガァ~~~ヂュウゥ~~~~~ッ!!!」
サトシ「かわせ!リザードン!!そのまま火炎放射でトレーナーごと葬り去れ!!!」
リザードン「ッギャアアァーーーーーーッス!!!」
父ピカ「ピガヂュッ!?!?!?」
カマ・セイヌ「えッ!?ちょッ!?トレーナーごとって!?
っうぎゃあああああああああああああああ!!!!!!」火炎放射を放たれた父ピカとカマ・セイヌ選手は、消し炭となった。
そんな二人に残されたピカ家族が駆け寄って泣き叫ぶ。
母ピカ「ぴかちゃあぁー!?ぴーがぢゅー!!!」
長男ピカ「ッチュピガァーー!!」
長女ピカ「ぴーかぢゅー!っぴいぃー!!」
次男ピカ「ピカピカアァァァ!?」
次女ピカ「ぴかぴ・・・!?ちゅああぁぁぁ~~~っ!!!」
消し炭となった二人はピカ家族が触れると、クシャリ、と音を立てて崩れた。
ピカ家族は一瞬にして愛するトレーナーと父ピカを失い、試合中にも関わらず、ピーピーと泣き喚く。
サトシ「リザードン、トドメだ!!」
それからはリザードンの無双状態だった。
母ピカの腹を爪で切り裂き、腸を引きずり出した。その腸を次女ピカの首に巻きつけて絞殺した。
次男ピカを火炎で火だるまにし、長女ピカに押し当てて二匹を灼熱地獄へと招待した。
残った長男ピカは恐怖と絶望で抵抗できず、舌を噛み切って自害を試みたが、リザードンが腹パンをして地面に叩き付けた。
そのまま身体を抑えつけられ、右腕を焼かれて絶叫を会場内に響き渡らせた。
左腕は手でもぎ取られた。両腕を失い、涙と鮮血を撒き散らす。
そのままリザードンは少量の炎を吐いて長男ピカの顔面を炙り焼き、彼が出血死するまでいたぶり続けた。
実況「コングラッチュレーーーショォーーーーーン!!!
全世界ポケモンリーグ優勝者は・・・マサラタウンのサトシ選手だァーーーー!!!」サトシ「やったぜェーーーーーーーーーーーッ!!!」
リザードン「ギャーーーッス!!!」町のテレビ実況で試合を観戦していた人々は拍手をしていた。
「やっぱポケモンは基礎パラが大事だよな」
「あぁ、それにしてもピカチュウパーティなんかでよく決勝までこれたな、あのカマセとかって選手」
「運が良かったんだろ。あんな雑魚ネズミで一勝でもできた時点で奇跡だったろうにな」
「ホントにな。ピカチュウを手持ちに入れるなんてポケモンをナメてるよな」
「「ハハハハハハハハ!!」」
ピカチュウは画面の奥で優勝トロフィーを手にしながら満面の笑みを浮かべているサトシを見て、その場に倒れた。
自分のポケモンとしての存在意義とは何だったのだろうか。これまでの人生はなんだったのだろうか。
そう考えている間もなく、テレビ中継を見終えて歩き出した人々に枯れ葉のように身体を踏み潰され、死んだ。
絆、愛、仲間、自分の居場所…全てを失い、ゴミクズ同然となった彼には相応しい死に様であった。
実況「サトシ選手!!全世界のポケモンマスターとなった心境をお聞かせください!!」
サトシ「ハハハ!!皆さん!!ポケモンは力こそが正義です!!俺はそれを証明しました!!
皆さんも強くなりたければ、雑魚ポケなんか手放して強ポケパーティーを組みましょう!!」
サトシはこれから、ポケモンマスターとしての名を馳せ、様々なメディアで活躍する世界一のポケモンマスターとしての人生を歩むのだった。
おわり【あとがき】
久々の更新!!
イラストを描いてくださったフォロワーのあくあ様、どうもありがとうございました!!
キャワイイ雑魚ピカたんが泣きじゃくって精神的に弱っている絵は心地良いでチュねェ~~~ッ!!
そして今回はピカ虐SS史上初のハッピーエンドです!!
いやー、たまにはハッピーエンドを書いてみるのもいいですね。
え?ピカチュウにとってはバッドエンドじゃないか、ですって?
ちょっと何言ってるかわからないですね
9/26追記
ラストのピカチュウの死亡シーンがあっさりしすぎているというご意見をいただいておりますが、この作品は皆から苛虐な扱いを受けて散々な目に遭い、最期はまるでゴミクズのようなあっさりと死ぬ、という悲運なピカチュウを描きたかったのであのような死亡シーンにしました。
- 2013/09/18(水) 00:39:16|
- ピカ虐(中篇)
-
| トラックバック:0
-
| コメント:16