#3の続きです
澄み渡る空気、草木のカーテンから見える青空、小鳥のさえずり、柔らかな風。私は、平和な森の中で産まれた。
パパとママと一緒に幸せな日々を過ごしていたのは、私がまだ幼い頃。
パパはいつも、私が大好きな木の実を採って食べさせてくれたり、色々なポケモンから私とママを守ってくれた。とても格好良くて強いパパだった。
ママは優しくて、冷たい風が吹く日には私を抱きしめて暖めてくれたり、子守唄を歌ってくれた。ママと一緒に眠ると、必ず幸せな夢を見ることができた。
ママはある日、「あなたも素敵な彼を見つけて結婚して、子供ができたらずっと一緒に、幸せに暮らしてね…」と呟いた。私は、パパとママみたいに素敵な家族を作って、もっともっと幸せな日々を送りたいと願うようになった。
そんなパパとママはある日、私の目の前で殺された。銃で撃たれて吹き飛んで、動かなくなった。
あの時の絶望と恐怖に満ちた自分の絶叫は、今でも脳裏に焼き付いている。
銃を撃ったのは、街からやってきた悪い人間。
そいつは私の耳を掴んでこう言った。
「お前は高く売れそうだ」
小さな箱に入れられて、どこかへ運ばれていく私。暗くて狭いその中は、幼い私の心を恐怖でいっぱいにした。
運び込まれた施設では、別な人間が私の頬を針で刺してこう言った。
「電気袋の組織を破壊できました。これでこいつは電撃を使えないただのメスネズミです。見た目は限りなく無傷ですので、傷が苦手なお客様でも安心して愉しめるかと」
それから先のことは、思い出すだけで吐き気と憎悪に見舞われる。
唯一の防衛手段であった電撃を封じられた私は、私を買った人間達の玩具にされた。
裸で私を襲ってくる人間達は本当に汚くて醜くて、怖くて…それなのに何もできなくて、パパとママはこんな人間達に殺されたのだと思うと悔しくて、泣き叫んだ。
人間達はそんな私を見て更に興奮して、あの気持ち悪い棒をもっと硬くさせて、私にねじ込んだ。
一日に何回も何回も、たくさんの人間達にそうやって汚されて、その行為が終わると私は暗い部屋に閉じ込められて独りぼっちになった。
どれだけ泣いても、力いっぱい叫んでも、誰も助けに来てくれなかった。ママがよく「わるものにさらわれたおひめさまとおうじさま」のお話をしてくれたけど、おうじさまがおひめさまを助けてくれるのは、物語の中だけだった。
私の物語に、おうじさまは現れなかった。
ある日、人間が花を持ってきた。私はその花の匂いでもかがせて、今にも壊れそうな私の気を紛らわせようとしてるのかと思った。
それは大きな勘違い。
人間がいつも棒をねじ込んでくる私のあそこに、その花をこすりつけた。そして私を大きな檻に入れて、たくさんの色々なオスポケモンを檻の外に集めた。
オスポケモンが私に向ける視線は、汚くて怖い人間達が向けるそれと全く同じだった。
その花の効力のせいで、檻の外のオス達は私に向けて棒を硬くさせた。無理やり檻の間から私のところに入り込もうとする奴もいた。
そんな状況で檻の扉を開けられたら、私はどうなふうに汚されて壊されてしまうのかを想像し、
「どうか、檻の扉を開けないで、これ以上私を汚さないで」と震えて泣き叫んだ。
人間達は恐怖で泣き叫ぶ私を見て笑った後、檻の扉を開けた。
なだれ込んできたオスのポケモン達は、ありったけの欲望を私にぶつけて、何度も気持ちよくなっていった。全員がそうなった時には、私は声と涙が枯れ果てていた。
人間はその遊び方が気に入ったようで、それからしばらく私に花をこすりつけた。
私が花を嫌いになったのは言うまでもない。
地獄の日々はいつまでも続いた。あの時、パパとママと一緒に死ぬことができたら…そもそもこの世に人間なんて居なければ…と考えるたびに涙が溢れて、私は壊れていった。
ある日、私はまた人間に売られることになった。
汚される私の様子を観て楽しんでいた金持ちの人間が、どうしても私を独り占めしたいということだった。
汚されるなら、たくさんの人間より一人の人間の方がマシだと感じた私は、今よりマシな生活ができることを願った。
しかし、現実は甘くなかった。人間はみんな、最悪な生き物なのだと思い知らされた。
私を買い取った人間はたくさんの「毒」を与えてきた。
それを食べるたびに私は頭痛、吐き気、全身の痺れなど、様々な症状に襲われた。吐いても何度も無理やり毒を飲ませてきた。
苦しむ私の姿を見てその人間は
「お前のような可愛い生き物が苦しむ姿は本当に美しい」と、おかしなことを言って笑っていた。
そんな私に追い打ちをかけるように、そいつは棒で叩いたり、熱湯をかけたり、今までの人間のように服を脱いで私に覆いかぶさってきた。
毒を飲まされながら身体を汚されるのは、普通の状態でたくさんの人間に汚されるよりも辛かった。
私が文字通り「死にそう」になると人間は予め用意していた様々な道具で私を治し、また行為を繰り返した。
本来、ポケモンを治す為の道具がポケモンを苦しめるために使われるのは、とてつもない皮肉だと感じた。
人間には家族が誰一人いなくて、そいつも孤独だった。
行為に及ぶ時以外、そいつは私に友好的に接するよう命令した。呼ばれたら「ちゃあ」と可愛く鳴いてこっちに来いだとか、飯を食う時も暇な時も寝る時も、常に俺の傍に居ろ、とか。
私はそんな奴の言うことを聞くはずが無かった。逆にとにかく愛想を悪くして、反抗的な態度をとった。頭を撫でられようとしたら噛み付いて、呼ばれても無視し、近づかれたらとにかく逃げた。
人間はそんな態度をとる私に怒り狂って、よりたくさんの毒を飲ませ、たくさん私を痛めつけた。それでも私は屈しなかった。私の人間に対する憎悪が、そうさせた。
今思えば、ここで上手くあいつをあしらっていれば、もう少しマシな方向に運命が傾いたような気もする。馬鹿な私。
その人間との生活は、あまり長くは続かなかった。
あまりにも私が言うことをきく見込みが無いと悟ったのだろうか、ある日、私は捨てられることになった。
森の奥に連れて行かれ、大きな木の傍でトラバサミっていう罠を仕掛けて、それで私の足をキツく挟んでこう叫んだ。
「もうテメェを可愛がるのはヤメだ。可愛いのは見た目だけで、性格はとんだひねくれ者のクソネズミだ!テメェは今からここで無様に死ね…泣き叫んでも誰も助けになんか来やしねぇからな。覚悟しろ」
木の上から、たくさんの羽音が聞こえてきた。
「じゃあなクソネズミ。その自慢の顔と身体をボコボコにされて醜く死んじまえ!たとえ助かったとしても、醜くなったお前のことなんか誰も愛してくれねぇよ!!」
次の瞬間、私はスピアーに襲われた。今まで何度も死にたいと思い、辛くて痛くて悲しい経験したけど、たった一人で、こんなに強くはっきりと「死」を迎えるのは初めてで、本当に怖かった。
私はまだ死にたくない、生きていたいのだと気付かされた。なんとか生き延びて、ママが言ったように素敵な彼を見つけて、幸せになりたかったことを思い出して、泣き叫んだ。
その叫びを聞きつけて、彼は現れた。
かつてのパパのように、電撃で敵を一瞬でやっつける姿。心が震えた。そして彼は、かつてのママのように、身も心も汚れて醜くなった私を、優しさで包んでくれた。
私は愛と希望、幸せ、全てを取り戻せたような気がした。彼と一緒にいることで、今までの辛い出来事を忘れ去ることができた。こんなに汚れてしまっていた私の過去を話しても、彼は怪訝な表情を一切出さず、優しく手を握って私を受け入れてくれた。私に寂しい思いをさせないよう、一緒に居てくれると誓ってくれた。
だから、私も彼の全てを受け入れてあげたかった。
でも、それはできなかった。
彼の大事なトレーナーさんのことだけはどうしても受け入れられなかった。私の心に植え付けられた人間への憎悪、恐怖心、不信感は、彼の説得をもってしても拭い去ることができなかった。名前を呼ばれることも、餌を与えられることも、トレーナーさんの全てを私の心と身体が拒絶した。
私がトレーナーさんと仲良くできないことを理解した彼は、私とトレーナーさん、両方の気持ちを尊重することに難しさを感じ、とても悩んでいた。
でも彼はめげることなく、「いつか必ず、君もサトシを信頼できる日が来るでチュ!サトシは僕の大切な相棒だから、間違いないでチュ!」と励ましてくれた。
私は彼を羨ましく思った。素敵な人間と出逢って、生活を共にしてきた彼と、トレーナーさんがとてもとても羨ましくて…胸が締め付けられた。
いつしか私はトレーナーさんに嫉妬するようになって、そういう意味でも、トレーナーさんと仲良くなるどころか自分から距離を遠ざけてしまった。
でも、私がそんな悪態をつく度に彼は傷付いて、トレーナーさんを独りにさせている罪悪感に苛まれていた。そんなにトレーナーさんのことを、愛してやまなかったんだね。
私はどうしても彼の心を完全に私のモノにしたかった。だから、トレーナーさんが彼にできないことをして、もっと私の虜になってもらおうと思って、ある夜、私は彼を誘った。
大好きな彼とする『それ』は、本当に本当に気持ち良くって、体中の細胞が溶けて、彼と重なり合って絡まって1つになるのを感じた。
彼がトレーナーさんを想う心も、トレーナーさんが寂しそうな目で見つめていた彼の背中も、全部私のモノにできたような気がした。人間が私からたくさんのモノを奪ったように、私も奪いたかったの。それが私にとっての幸せなんだと信じていた。
でも、やっぱり私は間違っていた。私は、彼とトレーナーさんと3人で幸せになるべきだった。トレーナーさんは私に心を開いてくれていたのに。その気持ちを私は知っていたのに。彼は私達を愛していて、必死に頑張っていたのに。誰も傷付く必要なんて無かったのに!
こんな結末は誰も望んでいなかったのに…私が間違って、みんなを壊してしまった。
自分だけの幸せを願ってしまったから………。
………ごめんね。
俺は目を覚ました。時間だけが止まって、その静止した時の中を彷徨っていたかのようだ。
ピカチュウも、メスピカも、ずっとここに居た。ピカチュウは相変わらず俺の腕(て)の中で冷たくなっている。
メスピカは光を失った目で、ピカチュウではなく、俺を見ていた。じっと何かを伝えたいかのような目で、ずっと見つめていた。
「今の……夢…は………………」
いつの間にか、俺はメスピカの全てを理解した。今なら彼女の全てを…誰よりも可哀想で、孤独で、愛されたかった、愛してやるべき彼女を受け入れられる気がした。
でも、あまりにも遅過ぎた。俺は愚かだ。彼女も、ピカチュウも…もう動かないのに。誰を愛することも、誰からも愛されれることができなくなってしまった。俺がそうしてしまった。壊されたのは、俺じゃなくて、彼女たちだったんだ。
独り、寂しく泣いた。人間に酷い目に遭わされてきた彼女のように。誰かに助けてもらいたかった、どうしようもなく哀しい運命を歩んだ彼女のように。
今、俺はこの部屋で、誰かに救って欲しかった。
誰も助けに来てくれないとわかっていても、自分一人ではこの気持ちをどうすることもできなかった。
俺はもう、全部終わらせようと思った。俺も、ピカチュウも、メスピカも、今までの思い出も全て壊して終わらせようと思った。
家の奥から灯油を持ち出し、部屋中に撒いて、頭からそれを浴びた。部屋の真ん中でピカチュウとメスピカの身体を優しく抱いて右手にライターを持つ。
最期くらいは、仲良くしような。
右手の親指に力を込めた。ライターの炎が右手から全身を覆い、部屋中に広がった。
一瞬にして、部屋は火の海になった。
熱さや苦しさは不思議と感じなかった。ただ、だんだんと身体の細胞が燃えて、溶けていくのを感じた。
ピカチュウとメスピカも溶けていく。
3人で一緒に、ほどけて、絡まって、壊れていく。
みんなが1つになって、壊れていく。
それだけで俺は幸せになれた気がした。
終わり
- 2015/06/18(木) 02:24:38|
- 鬱系
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